教育福島0015号(1976年(S51)10月)-015page

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ている。この点からも、ホームルーム担任は、日常的な生徒とのふれあいのなかで、教育相談的な考え方と態度・方法を生かしてゆく立場を大事にしてゆくことが必要である。また、どの学校でも養護教諭のところへは、生徒が気楽に出入りし、本来の看護をうけるついでに個人的ないろいろの問題や悩みを打ちあけ、極めて自然な形で教育相談が行われていることが多い。しかし養護教諭の行う教育相談の正しい位置づけがなされている学校は意外に少ない。

教育相談は万能ではない。教育相談には他の教育機能では果たし得ない独自のものがある半面に、また限界もある。しかし教育相談的な発想を抜きにしては生徒指導がじゅうぶんな効果をあげ得ない段階にあることを考えて、これまでの指導体制のあり方を相談的観点から洗い直してみる必要があろう。

 

五、教育相談活動の実践例

 

◆ 教育相談を生かした生徒指導

福島県立福島農蚕高等学校

佐藤 正

 

(一) 教育相談と生徒指導

生徒指導担当の一員である私は、毎日学校内の生徒一人一人の服装、態度行動をチェックし、違反者に対してその場で厳しく注意をし、生徒手帳・パス等を取り上げて担任に連絡する日々が続いていた。

ある年、大学の教育相談課程の講座を受けることになった。

研修を受けて学校にもどると、教師と生徒から変わったといわれるようになっていた。

今まで注意・しっ責するような問題を持った生徒が、身近に感じられるようになり、今なにを考え感じているかが理解できるようになり、援助したい気持ちが動き始めるようになっていた。

授業も一方的な講義方式から脱皮しようと工夫するようになった。

生徒の指導は、教育の同義語で情意面に重きをおいたものであり、一人一人の生徒を対象として、その精神的健康をより望ましい方向に押し進める面と、問題を持つ生徒に対してその解決を図る面があって、今まで指導してきたことは、後者の消極的な面を中心にして指導してきたことに気がついた。

教育相談は、すべての生徒の個性と能力を最大限に発揮させ、適応力を増進し、幸福な生活を送らせることを目的とすることであると教えられ、それは人間尊重を基盤とする教育の目的と一致するもので、この精神は、「生徒指導」の方法の基本的特色とされている教育愛、内面的指導、基本的欲求の充足、合理的指導(観察、検査、調査、カウンセリング、治療)、教師の共通理解等の根源に深く関連していること。教育相談的発想の生徒指導は、生徒を生かす道であると考えるにいたった。

現在、教育相談は、生徒指導の集団指導の立場から、管理的訓育的指導をするときに種々の矛盾を生じ、時には両面からかっとうが生まれ指導が混乱するという論や、教育相談は、ハト派教師の集まりで、生徒指導の態度として甘いという論も多い。

しかし「個人は集団から影響を受けるが、集団を動かすのも個人である」という言葉もある。これらの人との心理的な関係、相互作用を考えたり、しつ責する前に生徒の気持ちや言い分を聞き感情を受け入れることは、生徒をそのまま認め、許すことではなく、生徒に自分の問題として考えさせ、解決させようとする、自己どう察、自己指導の力を伸ばす態度は、生徒にとって長い時間のかかる苦しい道を歩かせる厳しい指導と考えている。

(二) ある疑問

本校は県下に誇る、伝統ある実業教育の中心校である。

生徒数は、一千名をこえる大規模校である。

生徒の質的低下は、他の実業高校と同様に、職業教育とともに、受験競争の波をかぶって進みつつある。

そのため生徒の目的意識の欠如、農村部の生徒が大半のため、生徒の問題行動も目立ち、学習意欲の向上策と合わせて生徒指導に当たる教師は苦しんでいる。

毎年、問題行動は、一学期半ばより始まり、二学期後半にかけて漸増しピークに達する。それがそのまま学年末に流れるのが常となっている。

(三) 発想の転換を

私たち現場の教師は、とかく非行の現象面のみにとらわれる傾向がある。

これらの生徒の問題行動が、なぜ、どのようにして、どうして、なにが原因で生じてきたのか心理的メカニズムを忘れがちである。

生徒の全人格にかかわるかも知れない問題を現象面のみで判断し、こうだと決めてしまう。一人一人の生徒をたいせつに生徒理解を深めなければと、それぞれの教師がわかっていても、問題が多く発生してくると、問題行動に対する見方は現象面だけで処理されてしまう。

水面に浮かんでいる氷を考えて見よう。水面上にでた部分が問題行動であるとしよう。それを上から押さえつけると、一たんは水に沈んでも、手を放せば、再び加えられた力に比例して強く浮かんでくる。またこれを削っても浮き上がってくる。これを繰り返していたのでは効果がない。そこで水面より下に沈んでいる部分、これが背後にあるものとい、えないだろうか。下にあるものが生徒の問題となる心理的なものといえる。

これを作り上げてきたのが、家庭環境であり、生育歴、友人関係、地域環境、学校生活、将来の進路なのでありこれらが生徒のさまざまな感情と交錯

 

 

 


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