教育福島0016号(1976年(S51)11月)-024page

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教育随想

 

私の好きな時間

 

小桧山芳子

 

小桧山芳子

 

「先生、きょうは反省会ないの」

不満そうな声に、急いで教室を出ようとした足を止める。

きょうは、金曜日。

週番引き継ぎ会が、三時十分からあるのだ。それに児童会役員になっている児童は、間近に迫った総会の準備で忙しそうだ。きようのように、行事が重なった日は、つい連絡だけ済ませて反省会をやらないでしまう。

「せっかく、ニュース、ちゃんとみてきたのになあ」

目の前の不満そうな顔。

「ごめん、ごめん。明日言ってもらうからね」

 

反省会に、『きょうのニュース』( 1)世の中のできごと 2)学校・学級のできごと)を発表させるようにしたのは六年生になってからだ。

学級日誌に『きょうの学習』『連絡』『宿題』 『気づいたこと』などのほかに『ニュース』のらんを新しく設けた。日直がこれらを記して発表する。

ただし、日直が見たり聞いたりするのを忘れた時や、もっとほかにもある時などには、司会でもある日直が、「私達は、よくわからなかったので、教えて下ださい」「もっとあったら、教えて下さい」と言って、みんなにも言ってもらう。そう言われるのを楽しみにしている児童が何人かいる。

私の足を止めた児童もその一人だ。

 

田沢地区は、阿武隈山系にあり、児童の家は、こちらの山の陰、あちらの山の上といった所が半数ぐらいである。あまり遠すぎて、新聞配達がいかない所もある。(それどころか、他の学年だが、ある児童の家では、いまだに、電気が引かれていない。

電化製品がはん濫している世の中なのに……。先生がたは皆、とても心を痛めておられる。)わがクラスの子供たちはテレビだけはみているようだが、娯楽本位に走りやすい。

クラスも一クラスだけで、どうも刺激がない。

昨年、担任となった時から、のんびりしすぎていること、向上心が足りないことなどが気になっていた。

どうにかして井の中の蛙にならぬようにと考えたのが”ニュース”だ。

はじめ、めんどうくさがって拒絶するのでは、というかすかな不安があったが、まもなく妃憂であることがわかり、ホッとした。

五年の時は、反省会が延びるとつまらなそうな顔をしていたのに、ニュースがたくさんある時は、「もう一つ言わせて。もう一つ」と時間が長くなる。

 

子供たちは、ある時は目をあちこち動かし、様子を思い浮かべるようにしながら、ニュースをじっと聞いている。「エスカレーターで事故がありました。手をはさまれて…。」

またある時は、

「あっ、それを知ってる!」と、うれしそうな声を上げる。

モントリオールオリンピックが開かれている間は、特ににぎやかだった。

傑作だったのは、五つ子の赤ちゃん退院のニュースの時。

「……。NHKでは、お祝をあげたそうです」

と言ったとたん、

「いいなあ。よし、おれんとこでは、八つ子でも生ましてもらうか」

これには一同大爆笑。

私も、子供たちといっしょに笑いころげながら、私はこの時間が好きだなあ、とつくづく思う。

そして、いつもより肩が軽いのを感じながら、少しでもみんなの視野が広がってくれれば、と思う。

(岩代町立田沢小学校教諭)

 

 

 


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