教育福島0018号(1977年(S52)01月)-010page

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特選・実践記録

 

一人一人を高める絵画指導

−−見てかく絵−−

郡山市立金透小学校教諭 坂本キヨ子

 

一、実践の趣旨

 

造形的に見る力、考える力、表す力を高めていくためには、児童の実態をふま、えて指導の手だてをくふうする必要がある。絵画表現の主な問題点をみると、●対象の見方が部分的であり、表現内容も全体的なまとまりが乏しい。●一人一人の児童が表現のめあてを具体的にとらえていない。●彩色上の発見やくふうが少ない。●仕事が遅いことなどである。

これらの改善を図るために、

(1) 学習課題を学級の共通課題と個人の課題に区別して設定する。

(2) 下絵づくりの段階で、中心の形や構図を単色で大づかみに表現する。

(3) 表現傾向に合った個別指導をする。

(4) グループによる合評を行う。などを指導過程に位置づけ、授業の充実を図ろうとした。

 

二、実践の内容

 

(一) 造形力を高める指導のくふう

(1) 学習課題の設定をくふうする。授業における共通課題を理解させ、中心的なねらいをじゅうぶんに意識させるとともに、一人一人が表現する内容や方法の見通しを個人の課題としてとらえさせる。そのことによって主体的な表現活動ができるようにする。

(2) 下絵づくりの段階で、単色による大づかみな表現をさせる。表現対象のとらえ方としては新しい試みである。下絵づくりは一本線描によるのが一般的ではあるが、色による大づかみな表現をさせれば、自由な気持ちで対象を見つめ、のびのびと全体をとらえることができる。

(3) 対象の見方を学年段階に応じた指導ができるようにする。低学年においては、中心となるものをおさえた見方をさせ、中・高学年では、中心とまわりの物の関連思考をはたらかせた見方をさせる。

(二) 授業の実際と考察

※ 紙面の関係で、「大づかみな表現」の例について述べる。

▼ 3年「つくえの上の植物」

ア、はち植えの熱帯植物を観察し、全体的な形のしくみや特徴をとらえる。

イ、植物とはちの主調色を決め、その色で大づかみな形に表現する。

ウ、一枚一枚の葉の形、はちの形を見直して、線がきによって修正する。

エ、重色によって細部の表現をする。

▼ 4年「じゅ木のあるけしき」

ア、画面の中心となるじゅ木の形を単色で大づかみに表現する。

イ、じゅ木のまわりの形を線描で大づかみに表現する。

ウ、じゅ木の形から動きや力強さが感じられるように修正する。

エ、重色によって細部の表現をする。

▼ 4年「花をかく友だち」

ア、花の形や花びんを単色で、大づかみにかたまりとして表現する。

イ、花の色と違う単色で、友達を大づかみなかたまりとして表現する。

ウ、構図や部分の形を確かめ、線がきで修正する。

エ、重色によって細部の表現をする。

(三) 結果の考察

下絵をかく方法として一本線描をさせていたときは、一本一本の線に神経が集中し、部分的な仕事になりがちであり、表現も委縮する傾向が見られた。それに対して、単色の彩色による大づかみな表現をした場合は、対象の形を大胆にとらえ、画面全体の造形効果を考えることができる。そのために学習の見とおしがたち、仕事の進み方も速くなっている。また、全体をとらえてから部分を描くことになり、作品に力強さやまとまりが表れている。

 

◇講評◇

 

観察に基づく絵画表現の過程は、1)対象の観察、2)下絵かき(一本線描)3)彩色(部分→全体)、4)作品完成の順になっているのが一般的である。それに対して、この実践においては、3)彩色(大づかみな表現→形や構図を毛筆・コンテ等で修正→細部の追究→全体的な整理)となっており、従来の表現の手順に本質的な改善を試みたものである。

「大づかみに表現する」ことは、対象の見方、表し方が大ざっぱになることではなく、対象の基本的な骨格をとらえ、形の成り立ちを理解することである。このことは、児童の造形的な見方、表し方を育てるためには重要な方法と考えられる。しかし、水彩絵の具やコンテなどの重色の技法が身についていないとその効果は期待できない。

児童一人一人の造形的に見る力や表す力を伸ばすため、表現の過程に着目したすぐれた実践である。

 

 

 

 

 


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