教育福島0018号(1977年(S52)01月)-011page
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特選・実践記録
自閉症児M子の治療教育に関する実践的研究
−−複数指導法をとおした行動療法を中心として−−
喜多方市立喜多方養護学校教諭 矢部フミ
一、実践の趣旨
M子は、乳幼児期より、人間の温かい愛情を感得する機会もなく、他の人との交流をいっさい拒絶し、人間性を消失してしまった自閉症児である。
医学界、教育界においても自閉症児に対しての治療教育については、未開拓の分野であるといわれている。そこで、極端な人間的孤立及び自閉性を打破するために、複数指導の手法を導入し、あわせて医師と連携指導のあるべき姿を究明することによって、自閉症児M子の人間性の回復を目指して研究を進めた。
二、実践の内容
(一) 実践の方法と内容
資料収集と観察記録を中核とした実践的研究方法を採用し、事例研究方式をとった。実態は次のようである。
ア、ことば ○独語が多く独得の言いまわしで早口○おうむがえし○自分から話しかけない
イ、対人関係は全くない
ウ、行動 ○喜怒哀楽の変化がはげしく表情の変化が乏しい○パニック状態になる。○突然泣きだす○他人に無関心○奇声を発する○物事に執着する○特定の友達や担任以外になじまない等自閉症児特有の様子を示す。
(二) 指導の対策
(1) 指導の基本方針
ア、極端な対人的孤立及び自閉性を打破すること。
イ、言語障害を改善して、会話を豊かにすること。
ウ、多動性及び衝動的行動を改善すること。
エ、身辺の自立を図り、社会性を身につけさせること。
オ、国語・算数等について、最低限の知識を身につけさせること。
(三) 具体的な治療教育の操作
(1) 二対二の指導形態を採用する。
(2) 三週間ごとに主治医とのカンファランスの実施。
(3) 過保護をさけ、共通理解の上にたった全校一体の指導
(4) 家庭と連絡簿を交換して、家庭・学校の一貫した指導
(5) 家庭訪問、担任宅への宿泊による校外での交流
(四) 指導計画
(1) 第一期(五十年四月〜七月)
○行動観察 ○ラポートづくり
(2) 第二期(八月〜十二月)
○身辺自立○多動性・衝動的行動の改善○ことばの指導
(3) 第三期(五十一年一月〜三月)
○ことばの指導○集団指導○対人関係の改善○国語・算数の基礎的指導
(五) 指導の概要と経過複数学級内において、M子にもE子にもそれぞれ担任がつき、二対二の指導システムの特性を生かし、直接指導としてのうポートづくり、共感性、接触性の強化と、M子に標的を当てたE子をとおしての間接指導を図った。(六) 専門医師との連携
(1) 資料に基づく現状分析
(2) 指導内容・方法の検討
(七) 変容と考察
諸検査並びに事実観察によると、行動面については、多動性がうすれ、衝動的行動が少なくなっている。
対人関係については、交友関係、集団行動とも改善がみられる。
ことばについても、場に応じた自発語が多くなってきている等向上が顕著であるが、学習困難度については、大きな変化がみられず今後の課題となっている。
◇講評◇
(一) 言語の異常(独語・反響言語)対人関係の希薄・喪失、同一性の保持欲求・固執・反復等自閉症児特有の状態像が多くの資料収集、観察記録によって明確にされ、その解釈意味づけも適切である。
(二) 指導は、第一段階から第三段階まで計画され、特定な人とのラポートづくりから集団参加までの取り組みが、複数学級内における二対二の指導システムを採用して行われたことは、行動療法の面からも有効な手段である。
(三) 特殊教育においては、専門医と教師の組織的な連携ということが強く提唱されているが、本研究では、三週間毎に医師とのカンファランスを実施し、常に専門的立場からの問題点の究明や指導内容・方法等の検討を行い、医療と教育が一体となって教育的効果をあげている点は、望ましいといえる。
(四) 諸検査並びに事実観察による変容からみると、対人関係や言語関係は一応の改善の方向がみられ、自閉性打破の道は開けたとみることができる。
しかし、知的面の開発、望ましい生活習慣の確立、集団(学級)への位置づけ等、今後の実践研究を更に期待したい。
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