教育福島0021号(1977年(S52)06月)-017page
させる。
〈指導例〉(七時間のうち一時限)
舞踏会 芥川龍之介
一
1明治十九年十一月三日の夜であった。2当年十七歳だった--家の令嬢明子は、頭のはげた父親といっしょに、今夜の舞踏会が催さるべき鹿鳴館の階段を上って行った。3明るいガスの光に照らされた、幅の広い階段の両側には、ほとんど人工に近い大輪の菊の花が、三重のまがきを造っていた。4菊はいちばん奥のが薄紅、中ほどのが濃い黄色、いちばん前のがまっ白な花びらをふさのごとく乱しているのであった。5そうしてその菊のまがきの尽きるあたり、階段の上の舞踏室からはもう陽気な管弦楽の音が、おさえがたい幸福の吐息のように、休みなくあふれてくるのであった。
6明子はつとにフランス語と舞踏との教育を受けていた。7が、正式の舞踏に臨むのは、今夜がまだ生まれてはじめてであった。8だから彼女は馬車の中でも、おりおり話しかける父親に、うわのそらの返事ばかり与えていた。9それほど彼女の胸の中には、愉快なる不安とでも形容すべき、一種の落ち着かない心持ちが根を張っていたのであった。(便宜上文番を付した)
〈展 開〉
Q題名からどんな感じを受けるか。
Q1「舞踊、民踊、ダンス・パーテー盆踊り」などと比べるとどうか。
Q2日本風とか西洋風とかいうのは、人のちがいか、服装のちがいか。
Q3「舞踏への勧誘」という曲名を知っているか。では、「舞踏会」ではたとえばどんな曲が流れたか。
Qこの作者の作品では、どんなものを読んだか。
Q「一」とあるが、どんなとき「一」、「二」「三」などと分けて書くのだろうか。
Q(1文を読ませて)1文からどんなことを感じたか。
Q1「明治十九年」「舞踏会」というとどんなことが思い出されるか。
Q2鹿鳴館時代というのを聞いたことがあるか。どんな時代か。
Q3「十一月三日」というのは何の日か。明治十九年の当時は何の日か。
後ろの注を見なさい。
Q4その「夜」、もし鹿鳴館で舞踏会があったら、どんな人が集まるだろうか。
Q5この小説の書き出しは、物語や作り話を書く感じか、それとも事実を書くような感じか。
Q(2文を読ませて)2文からどんなことを感じたか。
Q1「当年」の辞書的意味は?ここでは?
Q2当時の「十七歳」の女性は、今ならいくつぐらいだろうか。当時は何歳ぐらいで結婚していたか。
Q3「--家」という表現は、知らないからこう書いたのか。
Q4「令嬢」の意味は?「--家」というのはどんな家。
Q5「明子」という名前からどんな人を想像するか。
(a)明治何年生まれか。
(b)その当時の時代の合い言葉は何か。
(c)「明治」と「文明開化」というと明子に共通するのは?
Q6「頭のはげた父親」ということからどんな父親を想像するか。
(a)鹿鳴館の舞踏会に出席できる人というと、明治維新のときどんなことをしたか。
(b)すると、もとの階級は?
(c)明子といっしょに並んだ感じは?
Q7「鹿鳴館」というのは、どんな建物か。写真(教科書のさし絵)をみて特徴を考えなさい。
Q8「上って行った」という表現から作者は明子をどの角度から見ているのか。
(a)こちらに近づいて来るのか、向こうに行くのか。
(b)作者の眼は、明子とともに階段を上っていくと見てよいか。
Q(3文を読ませて)3文からどんなことを感じるか。
Q1「明るいガスの光」というのは、明治十九年の当時の人にはどの程度の明るさに感じたと思うか。
Q2「幅の広い階段」とあるがどのぐらいだろうか。西側には何があるのか。舞踏会だから、大勢の人が上り下りするのにとおれるところはどのぐらいの幅が必要だろうか。
Q3「人工に近い」というのは、ここではいい意味だろうか、悪い意味だろうか。
Q4「まがき」の辞書的意味は?ここでは何がどうなっていることか。
Q53文はだれの目に見えたものか。
Q(4文を読ませて)3文にあった「三重のまがき」に気をつけて、この場面を想像してみなさい。どんな感じがするか。
Q1「いちばん奥」「いちばん前」というのは何を基準にして「奥」「前」なのか。
Q2花びらを「ふさのごとく乱れているのであった」という表現からどんな感じがするか。
Q(5文を読ませて)何がどう見え、何がどう聞こえてきたか。
Q1「その菊のまがきが尽きるあたり」 という表現から視線がどう動いたと思うか。
Q2「音」は「おと」と読むか、「ね」と読むか。なぜか。
Q3だれにとって「陽気な」感じがするのか。また「おさえがたい幸福の吐息のように」感じるのか。
Q(6文を読ませて)6文からどんなことを感じたか。
Q1ここの「つとに」の意味は?ここでは、いくつぐらいからだろうか。
Q2「フランス語」と「舞踏」というのはどういう意味をもつのか。
Q3明治十年代にこういう教育を受けさせた「--家」の両親というのはどんな考えの持ち主と思うか。
Q4作者は明子の過去をよく知っているような書き方をしている。すると、4・5文はだれが見、感じたものか。
Q(7文を読ませて)7文からどんなことを感じたか。
Q1「正式の舞踏に臨むのは」からど