教育福島0023号(1977年(S52)08月)-011page
最近の雇用状況と進路指導について
喜多方商業高等学校 薄市志
ここ数年景気の低迷から、業種職種や地域によっては買手市場と転じている現在、進路指導上の資料とするために、本校の卒業生を採用している企業から二百十五社を選び、採用業務の一端を調査し、本校の進路指導に対する意見等も求めた。
一、新規高卒者の採用状況について
製造業では、高卒男子の採用が最も多く、採用総数の三九%であるが、現業職がほとんどで事務職は五%程度である。高卒女子は現業職事務職それぞれ半々である。卸小売業では、高卒女子が採用総数の六五%であるが、事務職は約一〇%で他は販売職である。男子はほとんどが販売、営業職である。金融業では、高卒女子が採用総数の五五%で、男子は七%しか採用されていない。(採用総数とは大卒短大卒を含めた数である。採用人数については企業との約束があるので記入しない。)特に大手有名企業の高卒採用手控えは、優秀な人材の採用が不可能という点にあるようである。したがって、各企業とも大卒高卒とかではなくて、応募者に専門性が高く、基礎学力もじゅうぶんであり、職業意識の豊かな人物であれば、採用の意志はじゅうぶんにあると思う。大卒女子の採用は、金融大手の採用が若干多い程度で、各企業とも少数である。高卒女子に職場をとられていると見てよかろう。
二、推せん依頼校の指定について
指定している企業が四三%であった。各企業とも採用数削減の傾向にあるので、従来から継続して推せんのある実績校を大事にしながらも、人材発見のためには実績校にこだわらないとする考え方も相当に強い。また、通勤圏からの採用に切りかえた企業が増加しつつあるのも最近の動きの一つである。
三、人事考課と学歴について
大卒の学歴はエリートコースへの切符ではないと評されているが、社員の昇進昇格に学歴は全く考慮しないと回答した企業が七五%となっている。この傾向は産業別に見ても差はなかったし、その理由は実力主義の人事管理方針を採用しているからとしている。特に、新興中堅企業ほどこの青天井方式を強く打ち出している。このことは実力主義の時代到来と見てよかろう。
四、高校生の選考状況について
各企業とも基礎学力を有し適性を備え、個性的な人物を要求している。したがって過去のように書類審査だけで採用する企業は皆無である。選考方法として最も重視しているのが面接で、それに次ぐものとして筆記試験と学校提出の調査書となっている。特に調査書は教師は自分が育てた生徒を相手に判定評価させるのではなく、生徒の能力人物適性について自信をもって評価し、その結果を記載すべきである。筆記試験の重視科目は、製造業では、一般常識・作文・専攻科目・国語・英語・数学の順。卸小売業では、作文・一般常識・国語・社会・英語の順。金融業では一般常識・国語・数学の順となっている。面接は卸小売業金融業が特に重視している。また面接評価の観点では、応募者に熱意意欲があるかが第一位で、すべての企業が評価項目として挙げているが、これは応募者が学校での学習・HR・クラブ活動等にどの程度積極的であったか、産業人として職業生活に熱意をもって取り組もうとしているか、志望動機が明確でより具体的であるか等を質問することによって評価しているようである。これに次ぐ項目は協調性・責任感・勤勉な態度という性格的要素に関するものが挙げられている。更に、服装・態度・容姿等から若者らしさを評価している。つまるところ、面接における採用基準は、1)熱意2)性格3)まじめ・勤勉さである。これらはいずれも一夜づけで準備できるものではなく、学校家庭を含めた指導の場で指導を強化する必要がある。
五、高校に求める企業側の意見
最近の高校生の基礎学力・職業意識専門性などについては、高まっているが二四%、低下しているが二八%、他はどちらともいえないという回答から見ても非常にきびしい評価である。また、企業が求める人物像についての回答では、業種によって重点の置き方が若干違いはあるものの共通している点は、1)基礎学力が豊富で若い思考力と自己啓発に意欲的な人2)明るく精神的にも健康で仕事に熱意がありねばり強い人3)組織のなかで誠意をもって事に当たり、職業人として社会に貢献しようとする、職業観を持っている人を求めたいという要望である。更に、高校に求める企業側の意見としては、1)知識偏重にならず人間教育を重視すること2)集団生活を営むのに必要な素養を育てる教育を行うこと3)生活するのに必要な基本的なしつけ教育を行うこと4)職業意識、労働観を育てる指導の強化5)生徒の人生計画・適性・能力等をよく観察して産業・職種の選択を助言してほしい6)応募者についての具体的な人物評価、素直な観察の結果を報告してほしいというような意見に整理される。最近の青年の意識調査によれば現代の若者は条件のよい職場に就職し苦労せずにその日その日を気軽に生きたい。仕事よりも家庭中心に生きようとする生活重視派が多いという結果になっているが、日本の将来のためにももっと職業教育を重視し、社会的使命を自覚させ、意欲的に産業界で生きようとする社会貢献派を育てる努力が必要