教育福島0024号(1977年(S52)09月)-029page

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Y君との一学期

 

佐々木義勝

 

お菓子を紙に包んでくれた。ことわったのだが、お菓子はポケットの中に……。

 

おばあさんが待っていたS子の家庭訪問を終えたとき、おばあさんがお菓子を紙に包んでくれた。ことわったのだが、お菓子はポケットの中に……。

人家のたえた切通しの手前で、Y君にお菓子をわたしながら、

「毎日、一人で歩くの。」

「どのくらいかかるの。」

などと、たずねてみたが、首を左右によるか、上下に動かすだけで、話をしてくれない。

Y君の家は、学区外にあるため、家庭訪問をその日の最後にしたので、Y君はわたしといっしょに、半日あちこちと歩き回った。その間、簡単な質問を何度かしてみたが、結果は先程と同じであった。

Y君が学級のなかで、口をきかないことは、担任して二十日以上も過ぎているので、じゅうぶんに確かめていた。だから、今日こそはいい機会だと思って、二人で歩いたのだが……。

友達ともほとんど口をきかないY君は、ひとりぼっちかと言うと、そうではない。

いつでも、みんなの遊びのなかにとけこんでいるし、グループ学習などでも、仲間はずれにはなっていない。いつもほほえみをたやすことはないし、スポーツは得意であるし、絵もうまいためだろうか。

家庭訪問によって、学校であったことをかならずお母さんには、報告するということがわかった。しかし、学校で話をしない原因はつかめなかった。

Y君のことは気にはしていても、他のことで追い回されるとつい忘れてしまう。四月、五月、六月と過ぎたのにわたしとY君には対話はない。対話がどうしても必要なときには、鉛筆対談ですますこともあったが、ほとんどはY君のうなずきだけで、用件をすましていた。

七月にはいり、国語は石森延男先生の作品「むねつまりなし」の鑑賞指導だ。単元の目標が、「読んで感想を深めよう。」なので、初発の感想から始まり、各場面(三、五、六、七の場面)で、場面ごとの感想をまとめる学習展開をしてみた。初発の感想や題名について気付いたこと、文章の書き方についての感想などを書いた段階までは、特にY君のことは意識していなかった。Y君のことで、「おや。」と思って意識するようになったのは、三の場面の次の感想を読んでからである。

 

個性的な読み取りを目指して

 

個性的な読み取りを目指して

 

『このきくの花は、この二人にとっていい花だと思った。それは、この花が母に会うきっかけだったので、この花がなかったら、母に会えなかったかもしれない。ぼくだったら、そのまま花なんかきにしないで、母に会ってしまう。この二人は、母にきをつかいすぎると思った。

この二人は、母がいたとき、きくの花なんかきにしていないとぼくは思った。きくの花を母のところにもっていくとき、弟と兄はきくの花なんてどうでもいい。母の所に行きたい気持ちがむらむらとしてきたのは、この二人は同じだと思った。弟が「いいにおいだな」。と言ったとき、うれしかったと思った。』

Y君には、級友やわたしとのコミュニケーションがない。そのことが、Y君にとって大きな痛手であることは、間違いない。このようなY君に必要な一つのものとして、Y君のような個性的な読み取りができること、すなわち確かな学習方法の会得が、どんなにたいせつであるかということである。今のY君にはより確かな読み広め、書き深めていく力を育てることではないかと気付いたのである。

 

(いわき市立御厩小学校教諭)

 

 

 


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