教育福島0025号(1977年(S52)10月)-024page

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教育随想

 

はぐくむ心

 

本田勇三

 

フットベースボール・ドッチボール、別のコーナーでは男児のソフトボールと。

 

春休みのよく晴れた昼下がり、校庭で無心に遊ぶ子ら、いくつもの集団が歓声をあげながら遊んでいる。片すみの方では女児のフットベースボール・ドッチボール、別のコーナーでは男児のソフトボールと。

子供たちの遊びが興じてくるにつれ歓声が一段と高くなる。校舎の前面には、今をさかりにチューリップが咲いている。その花壇にボールがコロコロところがり、二本の茎が折れてしまった。子供は「アッ」という叫び声のつぎに、ボールの下になって折れた茎をもとの姿にもどそうとささえている。折ってしまったことへの後悔の念がしみじみとうかがえる。

 

児童の中から「草花を私たちの手で育てたい。うさぎやにわとりをかわいがって学校で育てられないか。」という声が出てきたのは新学期が始まってまもなくのことである。やがて児童委員会活動として、園芸飼育委員会が新しく発足した。顧問教師を中心として緊密な飼育小屋の設計、PTAの労力奉仕によって立派な飼育小屋が完成した。

まもなくうさぎがはいり、にわとりがはいった。委員長K児を中心に飼育活動が始まった。飼育にはまだなれていない子供たちである。教師はもちろんのこと、父兄も毎日のように来てはうさぎの状態を見たり、えさの与え方を子供に教えてくれたかたもあった。

当時のAの日記には、次のように記されてあった。

 

待ちにまった飼育小屋ができた。私は小鳥や動物を飼うのが大好き。家にはじゅうしまつや犬、それに金魚を飼っている。毎朝、小鳥の鳴き声で目を覚まし、そっと起きては鳥のえさをくれる。だが、朝ねぼうをしてえさをくれる時間がなく、おばあちやんにえさくれをたのんでくるときがある。するとおばあちゃんは、「えさをくれないと小鳥はすぐ死んでしまうよ。」といってしかる。これからは学校の動物をこのようなことのないように、いっしょうけんめいに育てようと思う。

 

また、Bの日記には、

今日は日曜日、私は飼育委員の中で学校に一番近いのでうさぎの世話をする日だ。初めて世話をするのでうれしくてたまらない。朝起きてすぐたんぽぽやクローバーを取ってきた。世話をするのが待ちきれず、すぐにかけてうさぎのところに行った。草がいきが良いのでおいしそうに食べていた。私はおもわず「よかったね」とうさぎに言った。

 

うさぎの世話をする当番

 

うさぎの世話をする当番

 

「全児童に育てる喜び、働く苦労と喜びを味わわせよう。」という趣旨のもとに、夏休みの飼育当番は四年以上の全児童に割り当てた。三人一組になって、朝・昼・夕交代の当番である。ひと握りの草を持ってくる子、父親と山からくずの葉を取ってくる子など多種多様である。特に夏休み後半からの長雨には、子供たちも相当困惑したようである。母親が買っておいた人参を無断で細かくきざんで持ってくる子、雨ふりでえさを取ってくることができず小屋の前に来てみると、腹をすかしてえさを求めるうさぎの姿を見て、あわててかさをさしながら雨の中を草取りに行く子、等々。

二学期が始まった今日、ひよこから育ったにわとりがやっとリズムにのってコケコッコーと鳴く声が聞こえる。

新教育課程においては、ゆとりの時間を設定し、学校独自の教育活動ができるように示されている。こうした時間をじゅうぶんに活用し、児童が動植物栽培等の実際活動をとおして、はぐくむ心の偉大さを実践の中から感じとらせたいと願うものである。

(福島市立湯野小学校教諭)

 

 

 


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