教育福島0025号(1977年(S52)10月)-031page

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教育随想

 

興味こそ子供を変えさせる

 

斎藤傅治

 

を感じれば感じるほど六名の生徒をどう育てたらよいのか困惑し通しであった。

 

昨年度、教員生活三十年にして、初めて中一の特殊学級の担任をした。特殊学級の経営は、もちろん、各教科の指導について責任を感じれば感じるほど六名の生徒をどう育てたらよいのか困惑し通しであった。

まず、生徒個々についての申し送り事項を一読し、生徒の実態について大要をつかみ、どう彼らに接したらよいのかを考えた。特にずぶの素人の国語指導は、どのようにすべきか皆目見当がつかない。同僚や、このみちの先輩各位の御意見などを拝聴したが、なかなかできそうになかった。それで考えたことは、生徒自身が興味をもち、楽しく学習できることは何かということである。そこで、幼児向きから中学一年生までの読み物で単行本を十数冊準備し、授業に入った。最初に生徒個々の実態をは握するために準備した読み物を生徒に自由選択をさせて読ませた。生徒たちは、はじめ中一の誇りもあり程度の高い読み物に手を出した。しかし、一〜二週間後のある日Aが「おらはこの本がちょうどだ。」と小三程度の本をつまづきながらも読み出した。読める楽しみを知った彼らは、次々と自己の能力に合った読み物を選び読書するようになった。漢字の読み、書きができないことがわかった生徒に納得させ、「漢字の学習」という本を使用して小学一年生からの漢字の読み書きの学習をさせることにした。一字でも多く読めるようにしようと熱意に燃えているとき、Bが「先生、勉強おもしろくねえ、体育でもやっぺ。」と申し出て来た。漢字の音読み訓読みのむずかしさに苦労し、学習に対する興味が半減していたのである。意気消沈していく自分をしかりつけながら、もう一度個々の生徒を出発点にもどし指導することにした。

こんどは、小学校の国語教科書(一〜六年)を準備し、小学一年生から新出漢字、読みかえ漢字(一段十〜十五の熟語)の読み方、書きとりの学習をさせることにした。一段が完全に読めるようになったら、昇進テストを行い、合格したら次の段に進むことにした。この方法は予想外に興味を示し、競争して学習するようになった。たまたま所用で授業に遅れるものなら「先生、なにしてだんだ、早くテストしねえと次できねえベ。」「おら今日は三段合格すんだ、早くして。」と生徒が言うようになった。この学習をはじめてから八○%近くの定着率を示したのには驚ろかされた。

 

昇進テストをとおして学力を高める

 

昇進テストをとおして学力を高める

 

二学期の中頃から、読後感想文なども書かせたが普通学級にも劣らないものを書く生徒も出てきた。「お前たちの勉強ぶりはすばらしい。こんなすばらしい生徒をもったのははじめてだ。」というと、両手を挙げて喜ぶ者、「ようし、がんばるぞ。」と、明日に誓う者生徒一人一人が満面笑みを浮かべて素直に受けとめてくれた。私自身が生徒の意欲に励まされ、毎日の授業に励みが倍加し、今までの迷夢から解放されしみじみと教師としての喜びを感じることができた。

これは、私のつたない体験であるがこの体験を通じて特に感じたことは、

1、指導者は生徒に対して心で対応すること

2、どんな小さなことでも、良いことできたことは大きくほめること

3、個々の生徒に生活の中で一つ一つの完成のよろこびをもたせること

4、毎日の生活の中で苦しさを楽しさに変換させるよろこびをもたせること

5、個々の生徒が、やるべきこと、守るべきことは生徒の個性を考慮しながら必ず守らせ、やらせることなどである。

(白沢村立和木沢中学校教諭)

 

 

 


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