教育福島0027号(1977年(S52)12月)-030page
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教育随想
生徒とのふれ合いを求めて
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佐藤保正
平地ではさわやかな春風が吹きはじめるころ、路肩には、一メートルにも及ぶ残雪のある高原の裏磐梯中学校に赴任して、二年目の半ばを越えた。
私どもの学校は、生徒数四十名、職員八名のミニスクールである。生徒は昔木地師を職とした人々、戦後開拓者として入植した人々、ペンション等を経営する人々の子弟である。
生徒の実態は、よい意味での競争心に乏しく、学習への意欲が低調で、積極性に欠けるが、素直であり、実によくはたらく長所がある。
私どもの学校では、勤労生産的行事の一つとして、スキー場の「かや刈り作業」を行っている。これは、スキー場を使わしていただく感謝の気持ちとして、例年十月中旬に全校生で行うスキー場の清掃作業である。生徒とともにかまをふるい、本の幹になたをうちつつ、山菜採りや魚とりの話、スキーのことなどに話ははずむ。
「教頭先生、はやくここまで刈って来てください。檜原湖がとってもきれいですよ。」
三十五度もあろう通常「壁」という急傾斜を刈りあげていくと、S君が上から刈って来てくれていた。ようやく合流。
「S君、ありがとう。」
「みんなで力を合わせるとはやいなあ。」とS君。
感謝の気持ちと生徒の心が一つになった快感をおぼえる。荒い息づかいをしながら、どっかと石に腰をおろし、すばらしい景色をながめる。
「先生、あそこが蛇平で僕の家の屋根も見えるんですよ。 ほら、あれが。」と、K君もそばにすわる。
檜原湖で魚とりをした話、マスや赤はらの大きいのがいること、Y君が魚ににげられてくやしがったこと、観光客が漁券をもたずに穴釣りをして監視員にしかられた話など、教室授業ではみられない生き生きとした姿をのぞかせる。
「K君はどう思う。」
「悪いことは悪いんだからしかられるのはあたりまえだよネ、先生。」と、自分の考えをはっきりのべるK君。
「S君、K君、今度先生を案内してくれないか。先生は漁券があるよ。」
「うん、連れていってやる。」
生徒は気軽にうなづく。まことに素朴そのもので、完全に友達になりきって話し合う。
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芋煮会もたいせつなふれ合いの場
生徒たちは、こうしたインフォーマルな場での個と個のぶつかりあいのうちに、家族構成や家庭での自分の役割のこと、将来進もうと考えている進路のことなど、ちゅうちよなく話してくれる。
私たちは、このような機会に個々の特性を知り、可能性を見い出す手がかりをつかむ場をもっともっとたいせつにしなければならないと思う。
心のふれ合いが、真の自己をあらわしてくれるのだ。その実相こそ私たちに治療も援助も可能にしてくれるのである。私たちは、教育の原点である生徒と教師の人間的ふれ合いの場をたいせつにするとともに、多くの機会をつくらなければならないと思う。これは今回の教育課程改訂の基本方針にもうたわれているところである。
十一月も中旬になると、レークラインは車両通行止めになり、スキー部のランニングコースとなる。今年も昨年のように部員といっしょに走り、生徒とのふれ合いを密にしようと思っている。
教育にへき地はない。むしろ当校のような小規模校には生徒とのふれ合いの機会や場は多くある。学級をもたない、授業時数の少ない私は、こんなふれ合いをたいせつにし、かれらへの援助活動を少しでも多くと考えている昨今である。
(北塩原村立裏磐梯中学校教頭)
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