教育福島0028号(1978年(S53)01月)-009page
かわらず、変遷の理解が劣るのは、関係的な理解がなされていないからであり、したがって、そのような児童は、ある問題は完全にできても、別の問題では半分程度しかできないといった不安定な状態を示す」。と予想を立てた。
変遷の理解度が2の段階のプロフィールの例 (資料13))
(3) 課題3について
人物や文化の理解、因果関係をとらえる力に比べて変遷の理解が劣っている児童は、変遷の理解のしかたはどの程度なのか、誤答の程度(部分的な誤りなのか、すべてが誤りか)を調べることにした。
また、変遷の理解の安定状況については、例えば、ある問題で変遷の理解がAの段階の児童は、別の問題でもAの段階に達しているかどうかを調べようとした。
これらを、課題2で立てた予想が正しいかどうかの検証として行った。
(4) 課題4について
各問題における誤答事例から、つまずきの傾向や原因を明らかにしようとした。その一例を示すことにする。
法隆寺、奈良の大仏、寝殿造りは、それぞれ各時代を特色づける文化遺産である。この特色ある文化遺産の順序の誤りは、どのような原因によるものであろうか。資料32)から誤答の原因を調べてみると、Aと答えた者が最も多く(九名)BやCもみられた。法隆寺が最も新しいと考えた児童は、法隆寺が飛鳥文化の代表であるというだけで聖徳太子との関係で考えることはできなかった。また、寝殿造りについては写真や絵などで具体的に特色を発見させたはずなのだか、その用語の難解さと、政治や経済などと切り離して文化の特色を取り扱ったことから、変遷の理解にまで高まらなかったのではないだろうか。したがって、寝殿造りの指導で、唐風文化から、なぜこのように変わったのかという政治、経済面などからの因果関係の追究をじっくりさせれば、寝殿造りの時代感覚をは握させることができたように思われる。
変遷の理解に関する問題と誤答事例 (資料32))
(三) 研究のまとめ
(1) 明らかになったこと
1) 変遷の理解につまずきをもつ原因変遷の理解は、人物の業績や文化の特色についての理解、因果関係をとらえる力に支えられた応用学習内容であることが課題1・2から明らかになった。したがって、人物の業績や文化の特色など基礎的内容が理解されていなかったり、因果関係をとらえる力が養われていない場合、変遷の理解は困難になってくる。
課題3で、変遷の理解が低い場合人物や文化・政治などの理解のしかたに不均衡がみられることが明らかになった。理解のしかたに不均衡がみられると、時代の全体像、歴史的な構造が不明確になってくるために変遷との関係で理解することができなくなってくる。
2) つまずきへの方策
変遷の理解におけるつまずきを改善するために次のようなことも考えた。
○ 人物や文化の理解、因果関係をとらえる力など総合的な学力を身につけさせる。
○ 人物と文化、文化と政治などについて関係的にとらえさせ、時代の歴史構造に気づかせる。
○ 人物を指導する場合、「だれがいつ、何をした」だけでなく「なぜ」「その後どうなったか」というような探究的な姿勢をもたせる。
○ 変化前と変化後の社会の相違をいろいろな視点から比較させる。
○ 年表を常に活用し、時代の変遷をとらえさせる。
(2) 今後の課題
○ 変遷の理解をどんな内容で、どの程度まで指導するか。
○ 変遷の理解を高めるための指導計画や授業構成をどうするか。
○ 歴史事象、事実を関係的に理解させるにはどうすればよいか。
○ 変遷の理解を高めるための自作年表の作成と活用、板書・ノートの取り方等のくふうをする。
◇講評◇
(一) 第一課題を研究の出発点とし、第二〜第四課題と順次研究を掘り下げながら主題にせまろうとしており、論旨も一貫していてよい。
(二) 児童の理解や思考の実態を克明にとらえるとともに、学習のつまづき誤答の分析を行い、学習指導の改善に役立てようとする研究態度がよい。
(三) つまづきの原因追求、変遷のとらえ方については更に検討して研究を深めてほしい。