教育福島0031号(1978年(S53)06月)-012page

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多くなる。自分の部屋をきれいにし教科書もきちんと並べられ、登校の準備をみせはじめる。ころあいをみて核心にふれる言葉をかける。自分自身の生き方を考えること、自分に正直に生きること、学校を休んだことは決してむだではなかったこと、自分自身を静かに見つめることができたのだから、すばらしい勉強であったことを語りかけた。Sは私の話を納得したのか静かにうなずいて聞いてくれた。

翌日、Sは自分で学級担任に電話をして学校へ行くことを伝える。母は直接学校へ出かけ学校復帰の手続きをする。残念ながら出席日数不足から留年の形で復帰する。Sは自分の意志で立ち直り、二度と登校拒否をおこさないであろう。Sは登校拒否をすることによって生まれ変ったと言えよう。

〈考察〉登校拒否といっても、それぞれ異なった背景をもつものであるから一既にこれといった治療法はない。

その子の生育歴、幼稚園や学校歴等の生活史と家庭環境、特に保護者の養育態度等をつぶさに検討し、登校拒否の原因を診断してはじめて治療方針が立てられるものである。本ケースは、親の養育態度、特に母親に問題点があるとみて、母親との面接を中心に治療をすすめた。親の養育態度が変わればその子も変化をみせるものである。長男を病気で失った母親は、Sの成長が心の支えとしてSに期待し、至れり尽くせりの愛情を注いだ。結果的にはS自身の主体性、自律性の発達を阻害したことになり、さらに欲求不満耐性の欠如となり、Sを登校拒否児としてしまったようである。その上、Sには幼児期の不満を解消しないまま成長してきたという問題がからまり、複雑な心のあやを作っていたことである。それがほ乳びんやマンガ本の言葉になって表われてきた。これを一次的な現象として、思うぞんぶんSの甘えを受け入れることによって解消され、心が安定できたようである。治療者としてSに語った言葉は、自分の生き方は自分できめることがたいせつで、他人を気にしないですなおに自由に生きることだということであった。この言葉は、今まで他人によって作られたよい子であるべき自分からの解放を意図したものである。

母親の態度の変化は、面接を重ねるごとに、安定・自信・強さになって表われ「おかあさんこのごろこわいかんじ」とSの言葉になって証明された。それまではSにふりまわされておどおどし通しだった母は、次第に強くなっていった。母の態度の変化にSは無理な要求を出さず、徐々に自己を見つめるSに変化していったようである。

 

四、 登校拒否のタイプ

 

(一) 急性型の登校拒否

本事例のSは典型的な急性型であると言えよう。急性型の一般的な特長は思春期以後発生するもので、この型の子供たちのそれまでの生活史は、「よい子」「全く手のかからない子」で、親に大きな期待をかけられて育ってきている。それがある日突然登校することをしぶる。親は登校することを強制すると暴力をふるって抵抗するか、便所に入って中から鍵をかけて出て来ないか自分の部屋のおし入れ等に入って大さわぎをして学校なんてくだらないところだ等言いはって親を混乱させる行動を示す。こうした子供は、親からおしつけられた「よい子」という枠づけに自主性の発想を抑圧されて育ってきたのである。思春期になると、自我の目ざめによる自己批判、自己否定をはじめ、今までの自分はいつわりの自分であったとして自己の生き方を全面的に否定し、登校拒否を起こすのである。この自己否定こそその子にとって新しい自我の形成のはじまりであると言えよう。すなわち、登校拒否の状態の中で自主性の発達をとげるのである。

(二) 慢性型の登校拒否

登校拒否が決定的になる以前に、幼稚園時代や小学校時代に何度か軽い登校拒否傾向をみせる子供で、生育歴の一般的な特長は、物質的・金銭的要求が常に満たされている。いわゆる、でき愛・過保護の中で育ってきているので、自己中心的で、少々の困難につき当たるとざ折し、わがままの通ずる家庭へ逃げ込んでしまう。つらさに耐える意志力がじゅうぶん身についていないし、集団の規律、約束ごとの制約に対応できない決定的な弱さをもってる。

学校に行かない理由を、給食がたべられないとか先生がこわい、友達がいじめる等いいわけ(合理化)するので親もついついごまかされることが多い。

 

五、 むすび

 

登校拒否の子供の指導にあたってはその子がどのように育てられてきたかをつきつめ、親の養育態度とあわせて指導し、子供の自主性、耐性をいかに育てるかを課題にすべきである。

 

問題行動をもつ子供の指導

−小中学生の自殺をとおして−

二本松市立二本松第二中学校 伊東博

会津若松市立謹教小学校 長嶺寿夫

郡山市立安積第二小学校 遠藤久夫

 

はじめに

 

このレポートは、筆者らが行った「小中学生の問題行動をもつ子供の指導に関する研究」の一部を抜粋したものである。

機会を得て、筆者ら三人は、昭和五十二年十月より六か月間、東京教育大学教育学部教育相談研究所真仁田研究室において生徒指導、教育相談に関する研究を重ねてきた。

そこでの三人の共同研究のテーマが右記のものであったわけである。この問題にわれわれが関心を抱いたのは、新聞、テレビ等で繰り返し報道される社会的、教育的問題であるのに、このことに関する解明や予防的指導につい

 

 

 


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