教育福島0031号(1978年(S53)06月)-013page
ては、なおじゅうぶんな吟味を必要とする点が多いと考えたからである。
そして、はじめは関係者のインタビューを通じて検討し、意見交換を試みたが、公開するにはあまりにもプライベートな問題を含んでいるので、新聞記事の分析と専門家の事例報告を研究の資料とした。
一、 本研究の資料とした事例
約五年間、某新聞紙上に掲載された小中学生の自殺六十八件(全国)と浜松医大の大原健士郎教授が調査した症例九件を吟味のための資料とした。
○期間 昭和四十八年二月〜五十三年二月(五か年間)
○対象 小中学校の児童、生徒
二、 新聞に掲載された子供たちの性格特徴
○ 内向的で自分から話すことがない。
○ 目立たない性格だったが、半面思い込むとしんの強いところがあった。
○ クラブ活動の練習にはほとんど出席しなかった
○逆上しやすい
○友人が少ない
○身体が弱いために、欠席がち
○友達とふざけることが少ない
○無口で目立たない。
○つまらなそうで、無気力である
○教師とも積極的に話そうとしない
○明朗だが、一本気なところがある
○おとなしく、まじめな性格
総じて、対人関係が発展的でなく、内向的、無口でおとなしく、まじめで、極端に思い込みやすいといえる。自分から話すことは少なく、学級内では目立たず、課外活動や部活動などにも参加することは少ない。しかし、一本気なところがあり、思い込むと自分の考えを貫徹する。特に共通していえることは、信頼して話し合える友達が極めて少ないという点である。大原健士郎教授は、子供の自殺ではあまりに外向的な性格と、あまりに内向的な性格の二群があることを指摘している。
三、 遺書にみられる特徴
子供たちがのこした遺書のいくつかを紹介しよう。
○長い間、苦労をかけてごめんね。ぼくもうだめだ。疲れた。
○パパ、ママ、そしてみなさん、私は生きていく自信をなくしました。疲れました。許してください。
○やればできると人は言うが、私にはできない。疲れた。
○もう生きられないのです。いやなことばかりで疲れるのです。
○本気で自殺する気です。私には原因がわからない。
以上の遺書の一部でもわかるようにすべてではないが、遺書の多くに「疲れた」という言葉が目立つのである。そして、この疲れの表現に、われわれはもっと注目する必要があるように思われるのである。筑波大学の真仁田昭教官は、この子供の疲れに関して、以下の三つに要約している。
1) 身体的、健康的問題に対する対応の疲れ。
2) 対人関係での対応に伴う疲れ。
3) 学習、進学問題等に対する対応の疲れ。
そして、その対応すべき問題に疲れてしまうのは、その問題に自分とともに考えて手をかしてくれる人を、自分はもたないという心理、つまり人間に対する安心感の乏しい傾向が基底にあるのではないかと述べている。
四、 自殺の動機
表2からわかるように、小学生では対人関係による動機が最も多く、それに学習、身体的な問題等が複雑にからみあっている。中学生では、学習、進路・進学問題が一番多く続いて対人関係が多い。やはり高校進学にともなう問題が動機となっているのが目立つ。総じて、対人関係と学習、進路進学問題、それに身体的な問題が複雑にからみあっていることを物語っている。
五、 疲労を生じさせる心理的要因
この疲労の臨床的研究を重ねた大島正光氏は、その心理的要因として、やはり三つをあげている。
(一) 対人関係のわずらわしさから
(二) 能力、学習に過ぎたことを期待することから
(三) 身体的問題から
そして、これらの要因から生じた疲労は次のような症状を示すという。
1) 頭痛、頭重、頭がぼうっとする。
2) 不眠などの睡眠異常
3) 記憶力、思考力の低下など精神活動の低下
4) 放心状態
5) 憂うつ、怒りっぽくなる。突然に感情的になる。
6) 幻覚、妄想、強迫感、恐怖観念、
また、疲労が過度な場合、どのような行動傾向がみられるか、いくつかの研究をまとめると、
1) 登校拒否
2) 無気力
3) 勉強ぎらい、怠学
4) 家は出るが学校に行かずはいかいする
5) 放浪、家出
6) 人とのかかわりを断ち、うちにこもる
7) 乱暴、けんか、反抗
表1 学年別,男女別自殺件数
男 女 計 小4 3 4 7 小5 3 6 9 小6 10 5 15 小計 16 15 31 中1 7 4 11 中2 5 5 10 中3 16 9 25 小計 28 18 46 合計 44 33 77
表2 自殺の動機
区分 小学生人(%) 中学生人(%) 計人(%) A 対人関係 15(48) 18(39) 33(42) B 学習への適応、進路進学問題 6(19) 22(48) 28(36) C 身体的な問題 6(19) 4(9) 10(13) D その他(不明) 4(14) 2(4) 6(9) 計 31 46 77