教育福島0031号(1978年(S53)06月)-014page
8) 逃避、自殺
六、 問題行動の早期発見
問題行動を早期に発見し、その重大化を未然に防ぎ、より心理的にも健康な生活が可能となるように援助するには、教師が日常生活のなかで一人一人の子供に温かな関心を抱き、その心をより深く理解するように努め、かれらとの間に信頼関係をより深めることがたいせつである。
(一) 面接を通しての理解
子供と顔と顔とをあわせた温かな人間と人間との面接関係のなかで子供の内面的な理解を深めることがたいせつである。それは、子供たちが自分のまわりをどのように受けとめているのかその考えていること感じていることを教師が子供の身になってあるがままに受容し理解するように努めることである。
そのとき、教師は、人間の独自性と主体性を認める人間観を意識した上で子供に接し傾聴し、その内容を子供に伝える。そのことにより、子供たちは自分は教師に理解されていると感じ、自分の心を解放し、教師に自分の心を話しかけてくる。そのことによって子供の悩みや問題傾向を早期に知り、問題行動に対処することができる。
(二) 行動をともにしての理解
教師は学校生活において、種々の作業や運動、遊びをともにすることが多い。それらの活動をともにすることのなかで、そこでの子供の行動やしぐさの中に、子供心の動きをよみとることができる。特に小学生においては、児童の遊びにおける行動は一種の言語表現でもある。児童は遊びの中で欲求や感情を表現し教師に語りかけてくる。
従って、遊びは、子供の内面的理解を深め、問題行動の早期発見に有効な手だてである。
(三) 文章等を通しての理解
人間は心をゆさぶられる経験や悩みを持つとだれかに伝えたい、受けとめてほしいと願うものである。事実自殺等においては、事前になんらかの予告徴候を示しているものもあるといわれている。そこで、面接では自分の心を思いのまま表現できなかったり、時間的に面接の機会をつくることができない場合、作文や日記・手紙等の交換により心を表現しあう機会を設けるくふうが問題行動の早期発見に有効である。
(四) 観察を通しての理解
教師が子供たちの学校生活における行動態度を意図的に観察することによって、子供の心理的変化を敏感に感じとり、適切な指導に結びつけることができる。この場合、特にその子供の行動態度の奥にある心や感情に目をむけて理解を深めていくことがたいせつである。
(五) 諸調査等による理解
家庭調査や悩みの調査などから、家庭生活や対人関係等で問題を持ち悩んでいる子供を早期に発見することができる。適切な調査用紙を作成し、実施することにより本人ばかりか家族や反人などからも、早く正確な資料を集め問題行動の早期発見を可能としていける。
(六)家庭や地域との連携による理解
子供たちの家庭や地域における行動の変化や不審な言動など速やかに学校に連絡してもらうとともに、学校における変化についても速やかに家庭に連絡し、相互の連携による問題行動の早期発見に努めることがたいせつである。
七、 題行動の予防
われわれは一般的に問題行動と自殺を区別して考えがちであるが、小中学生の自殺を通してその要因を追求してきたかぎりにおいて
1) 身体的、健康的問題に対する対応の疲れ
2) 対人関係での対応に伴う疲れ
3) 学習、進路、進学問題等に対する対応の疲れが一つの大きな要因となって問題行動が発生しており、けっして自殺だけが特異なものではなくその根源は同じところからきており、自殺は問題行動の一つのあらわれであるといえる。その点からも私たちはじゅうぶんな配慮として子供たちと接する必要がある。不用意に話しかけた言葉一つにしても、ときには子供の心に大きな傷を与えていることも考えられる。また、「おとなしい目立たない子供」が問題を抱えて悩んでいることもじゅうぶん考えられる。問題行動が発生してからでは遅いのであって、その予防がたいせつになってくる。問題行動の予防には、一人々々の子供を正しく理解し親和的で信頼しあえる人間関係をもつことがたいせつである。そしてそのような信頼関係の中で子供たちは自己をありのままに見つめ自己受容し自己理解を深め自ら立ちなおることができる。その意味で理解即指導となる。
問題行動の予防として
1) 人間に対する信頼感と安心感を育てる。
2) 自立心を育てる
3) じっくりと話し合える時間をとり面接指導にあたる
4) 子供の耐性を育てる
5) 友人関係の調整を図る
6) 親子関係の調整を図る
7) 教師と子供との共感的人間関係を育てる。
8) 「死」をみつめ対決する心を育てる
9) 学校生活の中で問題解決の方策が唯一でないことを指導する
10) 学校生活の中で精神的疲労を生じさせない配慮をする
11) 子供たちが自己発揮できる学級づくりをする
12) 教師は絶えず自分の言動や生き方を謙虚に反省し、子供の心を傷つけるようなことがないかどうかふりかえってみる
などがたいせつであり、これらのことがらについてじゅうぶんな配慮のもとで指導を継続する必要がある。