教育福島0034号(1978年(S53)09月)-022page
2) 秩序回路の短絡
多動傾向の強い子供が活発に動きまわり、多種多様な物をつかんでは口に入れ、すぐに捨て、次々と手にする物を替えて行く。活発に探索をしているようにも見えるが、移動や姿勢のとり方によりたまたま視界にはいった物に接近し、つかんでは口に入れるという行動型の繰り返しにすぎない。目をあけている間は、指しゃぶりをしていて物をつかませようとしても、全く握ろうともせず、無理につかませようとすると、おこったり、泣いたりしていやがったり、また指しゃぶりにふける子供の行動なども同じ行動種とみなされる。また、登校拒否、かん黙などといわれる行動型もこれに該当する。
3) 緊張堆積の危急放出
ある競技会で念願の優勝を果たしたときにきん喜じゃく躍、手の舞い足の踏むところを知らずといった状態、あるいは長時間にわたる接戦のあげく雪辱ならず泣き伏すなど、急速に自全態(「不全態」の対語)に達し、はりつめた緊張から解放されたときにあらわれる。また、おもちゃいじりに熱中しているとき、母親が「ゴハンですよ」と割ってはいり、中止させようとすると、じだんだを踏んで泣きわめくのも、ある行動の進行に妨害がはいったとき、あるいは、窮そ猫をかむといった、難問にたちむかって思案投げ首をしているうちに、急に泣きだしたり、自分の頭をたたいたり、傍らの人をおしのけたりするなどの行動種もこれにあたる。
ここに述べた、1)、2)、3)の行動型は、微細な調整を要しない粗雑な行動種である点で共通している。つまり、粗大な調整による退行状態において起こる行動種としてつかむことができるのである。梅津はこれを救急行動体制*と呼んでいる。
(二) たゆたう行動=緩衝行動体制
たとえば、この稿をここまで書きすすめてくるまでに、ある時は、執筆活動がとどこおり、タバコをふかしながら思案したり、またある時は、浄書にも飽きて、子供を連れて釣りに出かけたりしたこともあったとしよう。そのようななんらかの事情で仕事に集中できずによどみ、たゆたう行動種について、つぎに述べていくこととする。
1) 伴奏行動体制*
さきに、芥川の『手巾』の一節を引用したが、長谷川先生は、息子の死を日常茶飯事を語るように話す母を不思議に感じた。しかしその時、テーブルの下でハンカチをかたく握って、とり乱さないよう調整していることがわかる。また、中・高校生に深夜放送を聞きながら受験勉強をしている者が多いときくが、これらも同じ行動型とみなすことができる。ただし、前者の場合、途中で絶句したり、ハンカチを握りしめて激しく全身をふるわせる状態に変換すれば、救急行動体制となる。また、後者では、問題の難かしいところにいたり、ラジオの音が耳にはいらなくなるひと時があれば、それは革生行動体制*(後述)となる。
2)間奏行動体制*
この項の行動型の例をどれにしようかと吟味しているとき、予定される十日先きの出張に伴う乗車券購入のことを思い出したとしよう。時刻表を手にとり、往復それぞれの利用列車の時刻を手帳にメモして、再び原稿執筆にとりかかる。そこでのたった今のこの行動型、つまり原稿執筆という大きなまとまりの行動体制の進行がよどんだとき、異質の行動種がそう入されたような場合がこれにあたる。したがって、正午を過ぎて昼食を取り(回帰行動体制*)、その後、同僚と囲碁を楽しみ、再び仕事にかえるという場合の囲碁も同じとみなすことができる。ただし、ときには熟考して新しい手を発見することもあろう。この場合、次節に述べる革生行動体制に変換されたとみることになる。このように、囲碁をしているから遊びだというふうな一般化したみかたをしないで、今は革生、これはあそびというようにその時々の特定対象総体によって判断していくことがたいせつである。ちなみに、プロ棋士の対局は、はじめから革生行動体制である。
3) 変奏行動体制*
小学校時代の思い出を綴った話である。担任教師が不在の日には、隣室の教師が授業の始めにやってきて、黒板に漢字を十ばかり書きつけ、五十回ずつ書くようになどと指示して退室する。途中、二、三度みえて机問巡視をして行く。こんな時、そのひとは、はじめの二、三字は指示どおりやっていたが、そのうち、最初に偏だけをざっと書きつけ、その後つくりを書き加えたり、筆順を逆に書きすすめたりして過ごすということをやったと記している。
ここでは、原課題作業の継続というよりは、原課題作業の中止に対する歯止めとしての変換特性をもっていることからも、強い集中度をもたらす調整水準による行動種とはみなし難い。
4) 中継ぎ過程系*
前回、四の(一)で「信号の培養態」について述べた。そこでは、代償価の高い行動種が象徴信号系になり易いことを指摘した。より高い調整による行動体制変換に繰り込まれたとき、その繰り込まれた行動種が中継ぎ過程系活動となる。
執筆活動の進行がとまり、寝ころんでタバコをふかしているとき、急に起きあがり静止するとか、指で畳に文字を書くなどといった形で観察されることもある。ただし、迷信とか、アメリカ、ローデシアなどに見られる人種的差別や心身障害者に対する偏見にもとづく振る舞い、あるいは地動説を主張したジョルダーノ・ブルーノを火あぶりにした教会派の人たちの行動型などは、行動者にとって、特別に必要もないときに勝手に振る舞う行動であったり、特定の対象、特定の場面に対する接近行動と回避行動との方向衝突による調整過程動揺であったりすることか