教育福島0035号(1978年(S53)10月)-017page

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特定の教師以外にもこの反応はみられる。また、介助により足を交互に動かすとこれに合わせて鈴を鳴らす。

○ 笑顔の表現は前よりもかず多く見られるようになった。

○ 指導後四年三か月、寄りかかりつかまり立ち、トランポリンの振動に合わせて両手を動かす。三輪車では、ペダルに足をのせる等の状態になっている。

カ)終わりに

重心児は、いわゆる心身ともに重症な子供で、最近までは猶予や免除措置により学校教育の対象外にされてきた子供たちである。

ようやく、就学義務制が施行される段階になって、各県各校ともに、病弱養護学校の最大の課題とされ、教育内容や方法の問題、施設事業との関連、教室設置の問題等々、クローズアップされてきている。

当校は、四十九年度から徐々にこの子供たちの学校教育を取りあげてきたが、全く底辺をさまよいつつ今日に至っている。重心児と一口にいっても、比較的軽度から中度・重度とその状態は一人一人異なり、一様に述べるわけにはいかないが、教育課程の領域でいうなら、いわゆる養護・訓練の額域を中心に、教科的内容を加味した指導内容を取り上げることにしている。

この事例に見られるように、生きているかぎりにおいては、生命の持続性と発展性の基本的可能性はみな持っていることに気づくのである。この可能性を可能にしているものは、医療であり、福祉であって、教育がそうさせているのである。

この子供たちにとってよりよい環境とは何か。これが重心教育の課題であり、まことに道は遠くまたけわしいが、一人一人の事例を大事に積みかさねていくうちに指導法が明るみに出るであろう。

 

2) 在宅心身障害児巡回訪問教育

学校教育法が施行されて三十年余、昭和五十四年度、養護学校教育の義務制がスタートすることとなった。義務制が見送られてきたのには、それなりの理由があった。

・養護学校がほとんどなかったこと

・学校管理、教育指導上の問題

・通学困難な子供の取り扱い

なかでも、重い障害のため、学校生活ができないという生活上の理由、あるいは安静を保たねばならない等の療養上の理由などから、通学困難な子供たちが少なくないのである。このことにかんがみ、特殊教育総合研究調査協力者会議(議長 辻村泰男)が行った報告「特殊教育の改善充実のための基本的な考え方」(昭和四十四年、三月)、中央教育審議会(会長 森戸辰男)の「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について(答申)」(昭和四十六年、六月)などを下敷きにして、文部省は、訪問教育の位置づけをつめながら、義務制施行の具体化をすすめてきている。

 

ア、養護学校教育の一形態としての訪問教育

通学困難な障害児に対する教育をどうするか。訪問教育はこの検討経過のなかからクローズアップされてきた。訪問教育とは、障害児の家庭に個別に教師を派遣して、マンツーマンで教育するという方式である。

訪問教育が行われだしたのは、昭和四十三年東京都府中市で市内小学校の元教頭が在宅の脳性まひ児に対する訪問指導がきっかけで、両三年のうちに全国的規模で急速に広がっていった。

本県では、昭和四十九年度から開始し、現在までの経過は、表9のとおりである。また、今年度の対象児を障害別に見ると、図3のとおりである。肢体不自由が過半数を占めていることがわかる。

対象児童生徒(以下「対象児」という)のほとんどが重度の心身障害をもっている。そこで、盲学校、聾学校又は養護学校は、心身障害児に対して、小・中学校等に準ずる教育を施し、あわせてその欠陥を補うために、必要な知識技能を授けることを目的とする(学校教育法第七十一条)ものであることから、心身障害の状態が重度であるか又は重複しており、通学して教育を受けることが困難な児童生徒に対しては、その教育の一形態として訪問教育を予定することになるわけである。

 

イ、教育課程について

対象児の多くは、周囲の状況の変化に無感動だったり、また外界に積極的に働きかけることが乏しい。指しゃぶりやひもいじりなどきまった動作を反復して終日過ごしたりする児童らは、それをやっている間、周囲との交渉関係を絶ち、進歩が認められない点に問題がある。そこで、かすかな変化を手がかりにして、働きかけを試みながら児童の受容度、抵抗度をたしかめながら、働きかけ方を強めたり弱めたり、あるいは別のしかけを用いるなど(状況を工作)したり、あるときは児童の自発活動を手をかけずに見守るなど(現勢を保障)して、いわゆる自閉的な性質の動作を漸次減らして周囲との相互交渉を促進させることを指導のねらいとすることになる。徹底した個別指導が要請されるゆえんもここにある。

指導員は、表10のとおり配置し、原則として年間百四十時間(週二回、一

 

表9 訪問教育の拡充経過状況

 

表9 訪問教育の拡充経過状況

 

図3 昭和53年度訪問教育対象児童生徒の障害割合

 

 

 

 

 


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