教育福島0035号(1978年(S53)10月)-027page

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ずいそう

きっかけをたいせつに

 

外島富子

 

外島富子

 

毎年冬が近づくころになると、私はゆううつになる。それは、雪がどっさり(二メートル内外)積もる地方に勤務しているために、体育の授業でスキーを指導しなければならないからである。不幸にして、スキーなどあまりやらない時代に育った私は、一度もスキーをはいたことがない。勤務してからも若いころは、スキーをはかないで、過ごしてきた。

ところが最近、近くに村営の南郷スキー場ができ、授業でも何回か練習に行くことになった。全然できない私は冬季間の体育が苦になってしかたがなかった。

ある日、校長先生に、学級のスキー指導をお願いしてみた。ところが校長先生いわく、「先生はこの雪の積もる所で何年教員をやった。今までどうやって指導してきた。人に頼むようでは困る。おれが特訓してやるからついて来い。」と、すさまじい表情で言われ、さっさと学校の裏に出て行かれた。いつもとずいぶん違うがどうしたんだろうと不思議に思いながらついて行った。

やっと着いたかと思うと「こうして滑るんだ。よく見ていなさい。」と言って堤防から伊南川の方に苦なしに滑っていかれた。「今度は先生だ。」私は困ったがどうしようもない。覚悟して滑った。途中で何回転もしながら必死になって滑った。最後のころ滑りすぎたので伊南川へまっしぐら、ザブーン。″ハッ″と気がついた。ああ夢でよかった……。

それからというものは、私の心はむしょうにかき立てられ、数日間悩んでいるとき、上司や同僚に温かく励まされた。それがきっかけで練習に踏み切った。

リフトに初めて乗るときは、全身がガクガクした。運動神経がにぶいために回を重ねてもさっぱり上達しない。何回かざ折しそうになったが、他から転勤して来られた先生がたの真剣な練習ぶりを見ては、苦しみをこらえて奮起した。このつらい体験は、つまずきを持つ子供の指導にプラスになった。

ある年、全然なにもやらない二年生のA君を担任した。「A君は大きくなってなにになるのかなあ」「ブルの運転手」「ああいいね。先生もバイクの免許を取るとき、字を読んだり書いたりするテストが出たよ。よく勉強していった人はみんな合格したんだよ。合格しなかった人は、勉強してくればよかったと言って、泣きそうな顔をしていたよ」など、話しかけて下校させた。翌朝私は、いつもの調子で教室の方へ行ったら、A君はノートを手にして、しきりに教室から出たり入ったりして私の来るのを待っていた。教室に入ったとたん「ほら、いっぱいやってきた。やってきた。」と、ニコニコしながらノー卜を見せてくれた。見たら自分の名前を大きな字で一ページ書いてあった。「ほう、これはたいしたもんだ。よくやってきたね。こうして勉強していけばブルの免許はきっと取れるよ。」と、言いながら大きな花まるをつけてやった。それからは、時々少しずつやって来るようになり、授業中もわずかではあるが、やる気を起こしてきた。この子供は、性格的にすなおであったこともあるが、ほんのちょっとしたきっかけでよい方向に向いてくれてうれしかった。ほかに、算数や体育嫌いな子供も、ちょっとしたきっかけから興味を持つようになった事例もあった。

このように、不得意とする教科を持つ子供が意外に多い。人間大人でも子供でもちょっとしたきっかけが、よい方向づけになる場合が非常に多いと思う。私も夢の中での特訓や周囲の励ましがなかったなら、終生スキーをはくことはなかったであろう。このことは今後の指導の面でもたいせつにしていきたいと考えている。

(南郷村立南郷第二小学校教諭)

 

やる気を起こしてきたA君

 

やる気を起こしてきたA君

 

 

 


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