教育福島0041号(1979年(S54)06月)-026page
この子らの幸せを願って
松本ミサヲ
中学時代の理想は実現する確率が多いというデータがあります。この辺地の子供にも心の中に温かくはぐくんでいる夢があり、今までにもこのような夢をかなえさせてやりたいと思っているのは私一人ではなかったろうと思います。とかく空想を追いがちである現代っ子に、理想実現の厳しさを教えるのも私たちに課せられた大きな任務と信じながら教育活動をとおし、毎日の積み重ねに苦心しているわけです。
朝の快活なあいさつ、ランチタイムの作法、清掃、作業学習をとおしての勤労精神や、生活記録表「あゆみ」の記入など、ごくあたりまえのことを自然にでき、自分で良いと信ずることは必ず実践できる子供に育てたいと願っているのです。
本校で現在実践している「あゆみ」の記入から、生徒の心の変容した一例があります。それは、無口でほとんど提出しなかったB子さんの「あゆみ」の一週間の反省に「勉強よりテレビの時間が長い」というメモ程度の簡単な記入でした。私はなにごとも最初の出会いがたいせつと、教師欄に「先生も勉強はあまり好きでなかったのよ。これからどんなことでもいいからもっとふだん考えていることを書いて下さいね。」と書いてやったのです。その後、彼女も簡単な文面だが毎週出すようになり、少しずつではあるが字数も増え、私も返事を書くのに張りあいがでてきたのです。そしてある日、「先生、私でも高校へあがれますか。みんなはどれくらい勉強しているんですか。私みたいにテレビばかりみている人はいないでしょうね。」やっぱりB子さんもいままで誰にも話さなかった夢があったのだと思い激励文を書いてあげたのです。こうして一週間に一回「あゆみ」によって生徒との対話を続けているうちに、家庭生活のようす、生徒と家族とのふれあい、手伝いのようす、部活動でのこと、友達関係等、教室ではみられないいろいろな生徒に接することができ、子供を教育していくうえでの貴重な体験を得ることができました。
家庭クラブで語り合う生徒たち
また、面と向かって話せなかった子供たちも、この「あゆみ」により心の窓を開き、夢や悩み、日常身近な話などを教師に語りかけ、「あゆみ」を書き続けることは自分たちにとり人生を切り開く基礎であるということも、ようやく三年目にしてわかりかけてくれたように思えるのです。
最終学年の三年生になり「あゆみ」もびっしりと字ですめつくされ、生徒一人一人の成長を物語っています。中学校時代は二度とこないたいせつな時期、時間は待たない、ということも承知の上で部活に熱中してはいるが、心のかたすみでは理想実現のために努力しなければならないと考え、ねむい日をこすりながら一、二時間机に向かう姿も読みとれるのです。いまでは最低二時間の家庭学習を合い言葉に努力を続けるようになりました。
一日の生活をふりかえり、どんな小さな体験も貴重であり必要であることも知らせ、理想に向かって進める健全な若者でありたいとさとし、個性豊かな理想を実現してほしいと願っております。
(川内村立川内中学校教諭)