教育福島0041号(1979年(S54)06月)-027page

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実質統合と生徒たち

渡邊啓祐

 

の二年生の作文を続みはじめた。次に、その作品の中から二例を紹介してみる。

 

四月二十八日(土)の放課後私は静まりかえった教室で「実質統合と私」という題の二年生の作文を続みはじめた。次に、その作品の中から二例を紹介してみる。

「実質統合と私」 三年女子

実をいうと私の本心は、分室ごとに卒業したかった。それは通学の便はもちろん、人数が多いので先生がたの指導が一人一人に及ばないかもしれない。また、学級でさえ名前と顔とが一致しないのに、三年生全員ともなれば何か月かかることか。それに私をよく知っていた多くの先生がたも転任してしまい私にとっては不利なことだった。でも、広大なグランド、近代的な校舎、なによりも多くの友達が学校生活を楽しく活気あるものにしてくれている。競争心もおきてきた。-中略-

今、私がやらねばならないことは、最上級生としての責任をはたし、指導力を身につけ、下級生をリードし、先生がたや町の人たちの期待にそむくことなく自分の可能性を自分の力で堀りおこしていくことなのだ。そんな人間になるよう努力していきたいと思っている。

同題 三年男子

ぼくは、四分室が統合することは決して良いことではないと思っていた。バス通学の都合で極端な時間の差があり、そのために大好きな部活動がじゅうぶんにやれない。この不満はぼくだけではなかった。-中略-しかし、この不満も何日か過ぎると時間の活用法を考えたことで解決された。むしろ人数が増えることで部活動が充実してきたし中体連をめざして希望もわいてきた。このことは勉強にもいえることであり、心に張りがでて充実した日々が送れるようになってきた。

この作文でわかるように、「実質統合」ということは、たしかに中学校最後の学年である生徒たちにとっては不安を抱かせたものであろう。しかし、近代的な施設設備の中での学習や、多くの友達を得たことで、生徒みずからが統合のメリットを体得し、新しいものを築こうとしている。この若いエネルギーに接したとき、身のひきしまるさわやかな感動をおぼえる。新校舎に自分たちで魂を入れようと張り切っている生徒たちとともに、一つ一つの課題解決を図りながら新しい校風、伝統を築くことができる学校に勤務できたことを心から喜び、誇りに思っている。

 

屋上での生徒総会(500名)

 

屋上での生徒総会(500名)

 

私の勤務する東和中学校は、三年前町内の四つの中学校(木幡・太田・針道・戸沢の各中)が名目統合し、二年間は同じ教育目標のもとに、それぞれの分室の伝統や特殊性を生かし各分室としての教育活動が営まれていた。今年度、町のほぼ中央の小高い山上に建設された中学校に遠距離生徒のためには、二台のスクールバスを運行し生徒数五百五十名、十六学級の実質統合をみてスタートをきったのである。

農山村の静かな環境の中で、人情味豊かな人たちにはぐくまれた生徒たちは、素直で明るい。そして彼らの書く作文は決して気負ったところも、メンツも感じられず、自分の今の心境がそのままにつづられている、それだけに読んでいく私の心に響くものが大きい。彼らのもつ悩みや課題にじゅうぶんこたえてやらなければならないと思う。

目を外に転じると、夕日に映える山々、そして、一周四百メートルのトラックをもつグランド、後楽園球場の広さをもつ野球場、ソフト、テニス場で元気に、全身汗を流して練習に励む生徒たち一人一人が大きく見えてならない。

(東和町立東和中学校教諭)

 

 

 


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