教育福島0041号(1979年(S54)06月)-041page

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公務員に対する懲戒権の行使

知っておきたい教育法令

 

一、はじめに

争議行為に参加した教職員に対しては、地公法第二十九条に基づく懲戒処分が科され、また、教職員も不利益な処分であるとしてその取消しを求めて訴の提起を行うことは、周知のとおりである。

ところで、公務員の争議行為については、一律全面的に禁止されているというのが確定した判例である。(最判昭四十八・四・二十五全農林警職法闘争事件、最判昭五十一・五・二十一岩教組事件等参照)そのため、近年下級審において、公務員の争議行為に対する懲戒処分が懲戒権者の懲戒権の濫用にあたり違法であるという理由で取消される例が多く見られる。ちなみに、昭和四十八年四月以降同五十二年七月までに争議行為を理由としてなされた懲戒処分に係る下級審判決は五十件あり、そのうち処分取消は二十七件、その大部分が裁量権の濫用による違法を理由とする。(教育委員会月報No.三百三十号五十五ページ参照)本年五月十日、札幌地裁においても北海道教育委員会が行った懲戒処分について、当該処分は、社会観念上著しく公平を欠き懲戒権の濫用であるとして処分を取り消す判断を示した。

そこで今回は、昭和五十二年十二月二十日に最高裁が「神戸税関事件」において示した判決内容を参照しながら懲戒権の濫用の意義等について考えることにする。

二、懲戒処分の性格

地公法第二十九条は、職員が法定の事由に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる旨定めている。この懲戒処分の性格について前記判決は、「公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義務違反、その他、単なる労使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁である。」と説明している。

三、懲戒権の裁量

次に、公務員に法定の懲戒事由がある場合、懲戒権者が懲戒処分をするかどうか、また、戒告、減給、停職、免職のどの処分を選ぶかについては、懲戒権者が具体的な事情に応じて裁量により決定するとされている。具体的な事情としては、「行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか行為の前後における当該公務員の態度、処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等」を挙げることができる。

行政事件訴訟法第三十条は、「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。」と定めている。後者(その濫用があった)の場合が裁量権の濫用といわれるものである。このことについて判決は、「裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならない。」と判示している。

四、司法審査の方法

最後に、裁判所が懲戒権者の行った懲戒処分の適否を審査する場合の方法について前記判決が示している箇所を紹介しておく。

「裁判所が右の処分の適否を審査するにあたっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。」

 

 

 


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