教育福島0042号(1979年(S54)07月)-007page

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建物があって、そこに通学可能な児童生徒が教室で教師によって教育されるという観念だけでは対応できなくなった。

このため学校に通学できない児童生徒のためには、家庭や病院に教員を派遣して教育する訪問教育も制度化されている。

一方、これまでの養護教育の歩みは、盲、聾、養護学校あるいは特殊学級の設置によって、障害児と健常児を分離して教育するという方向ですすめられてきた。

それが可能な限り、健常児と共に教育すべきだという論も高まっており、これは国際的な流れでもある。

この考え方に対しても、いたずらに観念的、心情的立場で事を処するのではなく、分離教育と統合教育の必要性をそれぞれの障害児の教育的、医療的、社会的実態に即してじゅうぶん検討しながらすすめなければならない。

このように教育対象児の多様化は、教育の場、教育形態、教育内容・方法の多様化を生み、養護教育界では関係者の間でそのあり方を巡って論議が交わされるであろうし、そうあってもらいたいものである。

新しい教育分野である養護教育にあっては、より良いそのあり方を求めてさまざまな意見のあることは当然である。千差万別の教育対象児であってみれば、これに応ずる適切な教育は、千差万別の教育のあり方を創造しなければならないことは論をまたない。

養護教育は、その対象の複雑性からいって、なかなか簡単にわりきれないものであり、ある一つの考えや方法でもって片付けることができないのが実態である。

特別なレア・ケースが報告され、それが新聞、テレビ等に報道されると、すべてそうあるべきだというような単純な結論は出すべきでないのである。

これからの数年間は、教育現場における養護教育対象児の実態をふまえた教育実践とその実績の積み上げに基づく情報交換が養護教育を実のあるものにするか否かを決する重要な時期になるものと思われる。

教育は制度をつくり、施設、設備を整えれば良いというものではない。

養護学校教育の義務制施行は、制度的に義務教育の完成であるが、これは到達点ではなく、むしろ出発点と考えるべきであろう。

 

(三) 本県養護教育の今後の課題

 

県教育委員会では養護学校教育義務制の実施に備えて、幾多先人の実績を踏まえながら、本県の地域事情、自然条件等を勘案し、その準備をすすめてきた。

各学校現場においても、これに対処するための努力を重ねられてきたが、ここでその歩みを振り返り、将来に思いをはせると、問題は限りなく山積し、解決したつもりのものが、時代の変遷とともに、また新たな課題をかかえているものもある。

これらの課題を整理し、解決への努力を重ねて、本県養護教育のいっそうの条件整備、内容充実に努めなければならない。

 

1、教育内容及び方法上の諸問題

 

今までの養護教育の実践過程の中で軽度、中度障害児あるいは単一障害児の教育内容、方法については、ある程度、その成果はみられている。

養護学校教育の義務制施行によって学校教育は重度、重複障害児を受け入れることになったが、過去に経験することの少なかったこの対象児に対する教育内容、方法の開発は、今後の重要な課題の一つである。

このような対象児は、食事、排せつ、言語理解等、生活の基本にかかわる課題も乳幼児教育の段階からスタートしなければならないし、医療等と深いかかわりをもちながら教育をすすめる必要のあるものもある。

これらの教育対象児に、何をどのように教育すれば、その発達を促すことができるかという命題の究明のためには、その行動をどうとらえ、その発達課題をどうどう察するかが出発点となるであろう。

このためには、精神医学の基礎知識及び人間の発達に関する諸科学の知識の吸収、教育、養育、療育の実践研究の情報収集や教材教具の絶えざるくふうが必要である。

軽、中度障害の教育内容、方法については、その成果がみられていると前述したが、これとてじゅうぶんなものではなく、養護教育の近接領域諸科学、技術の進歩はめざましいものがある。

養護学校教育の義務制を契機に養護教育の全分野で教育内容、方法の改善を図り、充実した養護教育とするために実践研究が活発になされることを望みたい。

 

2、学校運営上の諸問題

 

(1) 教師の特性を生かした協力的指導

 

学校における教育がよりいっそう効果的に行われるためには、各教師の指導技術の向上を図ることはたいせつであるが、多様な知識や技術を必要とする養護教育にあっては、教師の特性を生かした協力的指導体制を組んで指導の効果を高めることが要請される。

これについては既に各学校で実践されているが、事前研究の不足や各教師のこの体制へのふなれなどから期待した効果が得られないようである。

学校の全教師がそれぞれの特性を生かして協力指導できる体制確立のための研究が必要である。

 

(2) 施設、病院との連携

 

本県の盲、聾、養護学校は、その多くが児童福祉施設、病院と提携している。家庭と学校が子供の教育について

 

 

 


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