教育福島0042号(1979年(S54)07月)-028page

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教育の今日的課題

 

牛渡恕

 

牛渡恕

 

昭和十六年といえば、太平洋戦争ぼっ発の年で日本の将来を決定づけた忘れ難い年でありますが、私たち学生にとって直接感じたものは、徹底した軍事教練と食糧品等に多少の不便さがあったと思う程度で厳しい学校生活の中にもけっこう楽しい青春時代であったと記憶しています。

そんなある日曜日、池袋で「鶴亀先生」と題する映画を鑑賞しました。ストーリーを簡単に紹介すると、主人公の老中学校教師が退職して、かつての教え子たち数名を訪問し、社会人としての奮闘ぶりを見聞した。結果は、鶴亀先生の想像していた教育の効果は、まるで反対の現実に直面し、夕方足どりも重く宿に着いたが、廊下にドッカリ腰を下し、しばしめい想俺の教育は間違っていたか≠ニ反省するのであった。

反対の現実とは学力に優れた教え子が実社会では必ず成功者とは保証されなかったし、教師を困らせた暴れん坊が人生の落後者ではなかった。四十年前の教育理念や鶴亀先生の理想像は、軍国主義の時代的教育思想であったのでしょう。

近年、高度経済成長時代から低成長期に移行して以来、人間性の回復が叫ばれ、教育に対する考え方も「豊かな人間性の育成」を基調に大幅に変革されてきたことはご承知のとおりでありますが、多様化された現在の社会機構の中で、少年の教育には大きな課題が山積しています。とかく現代っ子は自律心の欠如とか、耐える力が不足しているとか、根性がない等々……体力面ばかりでなく精神面でもモヤシッ子であると思われます。

その大きな原因の一つに、家庭での教育に問題があるのではないでしょうか。自律性とか、耐性とか、根性等は家庭教育のしつけの面での強化が大きく左右されるものでありましょう。楽なことは子供に、辛いこと、苦しいことは親が代替えするという風潮が大きく弊害となっていると思います。

かつての女子体操界の第一人者、小野清子選手は欧米諸国での家庭教育について、次のように述べています。

「私を含めて日本の母親は幼児を保育する場合、ややもすると感情的になりがちだが、外国の母親は明確な理念をもってしつけに気をつかっている。例えば、子供を連れて散歩をするにしても、目的をちゃんともっている。たとえ雨の降る日でも欠かさない。なぜかといえば、この子供を一人前の社会人とするために善悪の判断、耐性、自律性といった心情を幼児のうちに教え込むためとのこと」つまり、三つ子の魂百までもということでしょう。

次に、有害図書のはんらん、子供本位のゲーム遊びやインベーダーの出現等は代表的なもので、少年に与える影響は、はかり知れないものがあります。

子供たちをとりまく環境は一変し、戸外で自由に遊び回り、ガキ大将を中心とした集団遊びの中で培われた秩序、友愛、協力の芽は現代っ子の世界にはもう期待することが困難になってきています。私たち大人は子供の社会を忘れ、遊び場を奪ってきたことに気づき、青少年自然の家とか、子供の村とか、少年と自然を結びつけながら集団訓練をとおし、昔の子供の世界を再現しようと努力をしている現状は、後ればせながら同慶の至りに思います。

前述のような、非行を誘発する要因がいたるところに潜在していることに着目し、少年の健全育成をめざし、社会環境の浄化に努め、大人、私たちがこれら諸々の今日的大きな課題の解決に最善の努力を尽くして、鶴亀先生のごとく嘆く身になりたくないものです。

(原町市教育委員会教育長)

 

のびのびと

 

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