教育福島0043号(1979年(S54)08月)-028page
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教師のひとこと
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金成昌昭
子供たちと接しはじめて、はや、一年五か月が過ぎた。近ごろでは、毎日の授業にも、放課後の部活動でも、なんとか落ちついて取り組めるようになった気がする。
思えば私が水泳にとりつかれたのは学生時代であった。それ以来、この季節がやってくると、じっとしていられなくなるのである。というわけで、教職についた現在も、水が忘れられず、校長先生はじめ先生がたの御配慮により水泳部の顧問となり、毎日の放課後を子供たちとプールの中で過ごしている。
しかし、水温が低い梅雨どきなどは子供たちは、なかなか水に入ってはくれない。それを先輩の先生は、難なくやってのける。それも無言でである。なんとすばらしいことかと思う。くやしいが現在の私などにはとてもできないことである。
部活動での私の担当は、初心者の指導ということになっている。小学校ですでに水泳は学習してきているはずであるが競泳となると、また別である。もちろんまったくのカナヅチもかなり入部してくる。
昨年このカナヅチの中の一人の女生徒をなんとか泳げるようにしようと考え、いっしょにプールに入って顔を水につけることからはじまった。八月ごろになってやっと水に慣れてきた彼女に水の中で目を開けること、ビート板の練習と指導しているうちに一年はまたたくの間に過ぎてしまった。
ところがどうしたことか、その彼女が今年になってからの部の練習二週間めに突如として泳ぎ始めたのである。競泳にはほど遠い姿ではあっても、とにかく泳いでくれた。以前からの、気ののらないような練習態度ではなく、真剣な顔つきで何度も同じことをくり返す。時には水を飲み、息をつまらせながら−。
そうこうするうちに彼女はりっぱに泳げるようになり、七月二日、小名浜体育センタープールで行われた中体連大会にも出場したのである。
その彼女が競泳組に入ってしばらくしたある日、「先生、私がなぜ水泳部に入ったか知ってる?」と私に問いかけてきた。内心とまどいながら話を聞くと、彼女は生来体が弱くて運動はまるでダメ。ある時長い間立っていて気分が悪くなってしまった。それを保健室まで運んだのが実は私であった。それから数日後に彼女は、「水泳部に入りたい。」といって入部してきたのである。おそらく私はそのときに「水泳部にでも入って体を鍛えろ。」とでもいったのかもしれない。
自分でも覚えがないほどなにげなく話したひとことが、今彼女を水泳に、運動にかりたてている。以前泳いでプールから上がってくるたびに、肩を落とし、私はどうしても泳げないというようなさびしい顔をしていた彼女が、今や、積極的にやれるという自信をもつようになってきた。そのうえ、学校での生活態度も以前より積極的になってきた、と担任の先生から聞いた。このような彼女のことを思うと、教師の話すひとことのもつ重み、その重みに身のひきしまる思いがする。
このひとことを、子供はどう受けとめ、それによってどう変わってゆくのかということを、私の短い教師経験の中で実感として感じたのであった。そして、これを常に自分に問い続けることのたいせつさと同時に、教職にあるからこそ味わうことのできる喜びであるとしみじみと感じさせられるこのごろである。
(いわき市立内郷第一中学校教諭)
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そうだ、うまくなったゾ
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