教育福島0043号(1979年(S54)08月)-029page

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明日の家庭生活のために

 

山川寿美

 

山川寿美

 

家庭クラブは、昭和二十四年、CIEの家庭科指導官ウイリアムソンから紹介され、新しい家庭科教育実践活動の組織として発足三十年の足跡がある。未来の家庭建設者の集い、高校家庭科履修生の全国的な連盟組織である。創造、勤労、愛情、奉仕の四つをこころとし、家庭科履修の知識技能を土台に地域社会の家庭生活改善向上をねがうことを目的としている。

このクラブの研究発表から年々生活文化が創造されてきたのは楽しい。例えば綿入れのねんねこがスマートなママコートに、女子高生の自転車通学用のレインコートが深いまち入りで吹雪(ふぶき)のときも、梅雨時も安全通学出来るようになった。家庭の主婦は持てなかった記帳用の専用机を考案することもでできた。

学校では毎年、新入生を迎えると、家庭科学習の学び方ポイントのオリエンテーションを行う。家庭クラブ活動とホームプロジェクトについて、先輩の活動事例をとおして学ぶ。一学期七月に各自プロジェクト題目を設定し目標を決め実施計画の立案をする。夏休みは、この計画を実践活動に移す機会である。

なすことによって学ぶ家庭科学習の定着はこのときであることを考え、学期未整理事務とあわせて教師は、生徒の立案した多くの題材の事前指導に時間をかける。

生徒の選んだ題材には、機械工学、心理学、物理学、経済学等浅学な私には歯のたたない問題をかかえているのもある。

夏休みが終わると、各自実施状況を発表する。実施後の評価、次への発展研究指導など、また共通問題についてグループ学習への進展など授業中よりも大変気を使う指導である。一度試みたものが家族にいれられず次の手、それでもだめならまたこの手でと、努力の過程の中で忍耐、寛容、自制心などが養われるよい機会である。例えば魚のPCB汚染を学習しても、なにをたんぱく資源としてたべればよいかの研究につまってしまわない指導をひろげたいし、仕出し屋のごちそうづくめでなくて、家族やお客様のし好にあったむきむきのとり合わせでもてなせるようなくふう等、欲ばってみても、四単位必修、家庭一般の内容は知識技術の伝達で手いっぱい。じっくりと技術を向上させ、研究を進め、家庭生活に定着させるのはこのプロジェクトとクラブ活動であるようだ。

最近家庭生活の破壊、家族関係の解体を示す現象がマスコミをにぎわす。学習指導要領の目的に、「家庭生活に心要な知識と技術を家庭経営の立場から総合的に習得させ」とある。家庭クラブ活動などやっていたらとりのこされるといった声も高い。家庭科教育は大人になってからすればよいなどと女性評論家もいう。全人格の教育にあたって大学入試とか採用試験もたいせつであるが、生徒たちのするどい感覚、柔軟な手指の持ち主になんの刺激も与えずに硬直させるのは惜しい。

家庭生活を冷静に判断させ、父母を見つめる目に正しい方向づけをしてやりたいと思う。未来の家庭建設者にとって高校時代は人生の準備期間であるのに、朝早くから夜遅くまで家庭を離れ受験勉強補習に追われ、家庭でのしつけもないままに大人になることの恐しさを思う。少ない家庭科の時間の中で培われる貴重な学習が、明日の生活の発展の源であり、家庭クラブ活動が明るい家庭生活の灯であると考える。

(県立福島西女子高等学校教諭)

 

PCB汚染魚とたんぱく資源についての授業

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