教育福島0043号(1979年(S54)08月)-041page

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体罰について

 

知っておきたい

教育法令

 

一、 はじめに

 

児童生徒の規律違反行為、反抗的行為、あるいは授業中の不遜な態度等、教育活動を効果的に進める上で妨害となる行為に対して、懲戒の意味で、多少の体罰を加えることは止むを得ないと考えている親や教師がいるようである。しかし一方では体罰を加えた教師がたとえ教育熱心のあまりとはいっても問題とされる場合も少なくない。

そこで今回は、この「体罰」について、法令等にふれながら述べてみることにする。

 

二、 体罰の意義

 

学校教育法一一条では「校長及び教員は…懲戒を加えることができる。ただし体罰を加えることはできない。」と規定している。従って学校においては、どのような場合であっても懲戒として体罰を加えることは認められていないということを厳正にとらえるべきである。

ところで、昭和二三、一二、二二付法務庁法務調査意見は、「体罰とは…懲戒の内容が身体的性質のものである場合を意味する。すなわち、(1)身体に対する侵害を内容とする懲戒−なぐる・けるの類−がこれに該当することはいうまでもないが、さらに、(2)被罰者に肉体的な苦痛を与えるというような懲戒もまたこれに該当する。たとえば、端座、直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させるというような懲戒…」であると体罰を意義づけている。ただ具体的に、どのような行為が体罰となるかについては機械的に判断することはできがたい。たとえば一定の時間立たせておくにしても、罰を受ける児童生徒の年齢や健康、場所や時間の差異等条件が異なっていれば必ずしも体罰に及ぶとまでは言い切れない場合もあり、それぞれ個々の場合ごとにその当否が判断されなければならない。なお、昭二四・八・二に法務府が発表した「生徒に対する体罰禁止に関する教師の心得」を以下述べるがこれにより、かなり具体的に判断することはできるだろう。

 

(1) 用便にいかせなかったり食事時間を過ぎても教室に留め置くことは肉体的苦痛を伴うから体罰となり、学校教育法に違反する。(2) 遅刻した生徒を教室に入れず、授業を受けさせないことはたとえ短時間でも義務教育では許されない。(3) 授業時間中怠けたり、騒いだからといって生徒を教室外に出すことは許されない。教室内に立たせることは体罰にならない限り懲戒権内として認めてよい。(4) 人の物を盗んだりこわしたりした場合など、こらしめる意味で、体罰にならない程度に放課後残しても差し支えない。(5) 盗みの場合などその生徒や証人を放課後訊問することはよいが自白や供述を強制してはならない。(6) 遅刻や怠けたことによって掃除当番などの回数を多くするのは差し支えないが、不当な差別待遇や酷使はいけない。(7) 遅刻防止のための合同登校は構わないが軍事教練的色彩を帯びないよう注意すること。

 

三、 体罰と責任

 

体罰が行われた場合校長や教員は責任を問われることがある。

第一に公務員法上の責任であり、公務員としての職務上の義務に違反したものとして、戒告、減給等の懲戒処分を受ける。第二に刑法上の責任であり体罰の場合は、暴行罪、傷害罪、あるいは監禁罪等の刑事罰を問われる。第三に民法上の責任であり、身体に傷害を与えた場合に、その治療費及び精神的損害を償うための損害賠償の責任を問われ、あるいは国家賠償法第一条の規定が適用される場合がある。

なお、懲戒は教育的効果を期待してなされる児童生徒への制裁行為であるが、体罰は小学校でも高学年の児童になるにつれてその効果を認めなくなり、さらに中学生、高校生となるにつれ、体罰に対して反感を持ちこそすれその効果は全く否定するという実証研究結果も出ている。また、たとえ愛情にもとづくものであっても体罰になるような行為は人権侵害ともなる(大阪高裁 昭三〇・五・一六)ことに留意されたい。

 

 

 


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