教育福島0044号(1979年(S54)09月)-028page

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苦闘の一昼夜

 

安部勝

 

どんなに辛くとも是非観察したい」ということになり、実施計画に着手した。

 

本校草花クラブ員十三名は草花栽培に取り組んでいる。あるとき朝顔の開花を観察したいということになった。しかし、1)開花は夜である。2)観察には長時間必要とするなどのことから無理ではないかと生徒と開花の神秘性を話しているうちに、生徒もすっかり興味をもち「どんなに辛くとも是非観察したい」ということになり、実施計画に着手した。

目的、観察内容、方法等の事前調査を経て観察に入った。写真撮影は午後六時に始まり十二時までは一時間ごとに撮影、以下午前九時まで三十分ごとの撮影をした。(特に一時か三時三十分までの花の変化はいちじるしい)もちろん生徒は一睡もできず植物に傾注しての悪戦苦闘である。開花の神秘性に魅せられて手早に記録していく生徒の真剣なまなざし、真剣な態度、花房の変化を観察しながらシャッターを切る手にもなにか興奮がみなぎっている。写って下さいと祈りをこめる真剣な態度。生徒は初めて見る開花の様子にただ驚嘆、感激するばかりだ。私自身この真面目な真剣な態度に感涙を覚えた一コマもあり忘れ得ぬ思い出として残ることだろう。「生徒の要望を取り入れやらせてみてよかった」と思うし、生徒自身も忘れ得ぬ貴重な体験として終生心の中に残ることだろう。生徒一人一人の能力は別として、クラブ員が一体となって実施したあの日の思い出は心に深く秘められると思う。

実施してみて感じたことは、生徒自身の意欲とやればできる能力をもっているということだ。ただどこでどの分野でだれが生徒の心に潜在する能力を引きだしてやるかが問題であり、このことは私ども教師の研究課題でもある。

特に草花を栽培する場合、生理的・形態的特性、各器官(根、葉、茎)の役割、開花の生理、各種類、品種の特性等々の理解がたいせつであることは言をまたない。しかし、生徒自身が興味関心をもって一つの理論を実証できる部分はなにかについて考えると理論だけで理解させようとしても理解させにくい分野がかならず存在する。当然のこととして、栽培理論と検証実験との連携により体験させ理解させることが栽培の基礎的要素としてたいせつである。興味、関心はみずからの体験をとおして芽生え育つことが多いからである。生徒との心のふれ合いの中からはぐくまれる小さな芽をたいせつに謙虚な気持ちで、教師の立場、生徒の立場を考えながら進みたいと思う。

(県立会津農林高等学校教諭)

 

写真説明

写真右鉢二つの花房は室温二十三度で開花の様子を観察したもので午後六時の小さな花房は午前三時には満開となる。写真左の鉢は室外にて開花させたもので(撮影時に室内に入れ同時撮影する一平均気温十一二度、午前三時の同時刻には七十%の開花にとどまる。以上の記録をもとに考察がなされ観察のすべてを終えた。

 

 

 

 

 

 

 


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