教育福島0044号(1979年(S54)09月)-030page

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研究実践紹介

 

自閉的傾向が強く常同行動のある

 

重度・重複障害児の指導

 

県立須賀川養護学校教諭 中丸恵理子

 

一、はじめに

 

ことばもなく歩くこともできない子供たちには、健常児が自然発達の中で身につけていく、立つ、歩く、話すなど人としての基本的行動を学校教育の中で計画的、継続的に指導してやらなければならない。過去の学校教育の概念では考えられない教育内容であるが対象児にとっては人として生きるために最も重要なことである。

ここでとりあげる事例は、数年前までは学校教育の対象とされなかった重度・重複障害児である。一年間の指導結果ではあるが著るしい変容を紹介する。●対象児 K・E 男 十二歳

 

二、本事例の対象児の内容

 

(一) 心身の障害について

 

脳生マヒ(筋緊張低下型)軽度の運動障害と重度の知能障害があり言語はない。脳波に軽い異常がある。視覚・聴覚に異常はない。右半身に軽いマヒがある程度でその他特に身体的障害はないが歩行できずいざつて移動する。体を左右に振る、顔前で手をヒラヒラさせる等の常同行動があり自閉的傾向が強くコミュニケーションが成立しない。また顔面、頭部、体を強く打ちつける自傷行為のため背骨や頭が変形している。日常生活動作に全面介助を要する。

 

(二) 就学時までの生育歴・医療歴の概要

胎生期−妊娠四か月目に人工妊娠中絶を行ったが、五か月日に胎動を感じて受診。胎児が残っているといわれそのまま妊娠を継続した。(二卵性双生児ではないかと推測される)

出産・新生児期−出産時特に異常はなかったが、泣き声、哺乳力が弱かった。乳幼児期−生後三か月目から一日

二、三回のひきつけがあり約一か月程続いた後、一時(一か月程)止まりその後再び現れたが次第に減少した。

生後三、四か月頃異常に気づいたが放置した。一歳六か月時脳性マヒと診断された。四歳時医者より重症心身障害児施設に入所させるよう進められた。四歳二か月時に入所。在院八年五か月。

 

(三) 就学時の状態と教育歴

一日の大半をベットで過ごし、常同行動に終始している。食後時間がたっても食物をほとんど原型のまま嘔吐、反すうする。学習室では「いざって動きまわり少しもじっとしていない。周囲にあるものをはじき「えーえー」と大きな声を出し非常に興奮している。物を与えるとはじく、又はつかんでふり投げる。体に触れるといやがり、名前を呼んでも反応しない。

昭和五十三年四月一日、本校小学部三年に十一歳で入学。それまで不就学。

 

三、指導の目標と方針

 

(一) 目標

 

○ 人とのかかわりの中で情緒の安定を図る。

○ 運動機能を高め行動・経験の幅を広める。

○ 声をかける、体に触れる等でコミュニケーションの成立を図る。

 

(二) 指導内容と方法

 

○ トランポリンにのせる。

○ 介助して全身を動かす。

○ 身体接触をする。

○ たくさん話しかける。

 

(三) 方針

 

本児は非常に自閉的傾向が強く常にイライラしている状態である。できるだけ欲求を満たしてやり、わずかでも精神的に満足できる時間を過ごさせることを中心に指導する。またいやがることを無理じいせず適度な刺激を多く与える中で教師の意図する学習をさせるよう配慮する。

指導は週二回学習室で学習する他、随時ベットサイドでの巡回指導を行う。

指導形態は複数担任制を原則とするが、直接の指導は特定の教師が担当する。指導後ミーティングを持ち教師間の共通理解を深める。

 

 

 


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