教育福島0048号(1980年(S55)01月)-025page

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ゆずりはに願いをこめて

 

原武雄

 

原武雄

 

「子供たちよ。これはゆずり葉の木です。このゆずり葉は/新しい葉が出来ると/入り代わってふるい葉が…………新しい葉にいのちをゆずって−−。……もう一度ゆずり葉の木の下に立って/ゆずり葉を見る時が来るでしょう。(河井酔茗作)」

卒業記念のゆずり葉の植樹が終わった校庭に、子供たちの声が一つに和して「ゆずり葉」の詩の朗読が流れた。

思えば四月、この六年生を担任して、この子供たちにみずから考え、正しく判断し、たくましい実践力を持たせるよう、一人一人の子供が持っている能力や特性をじゅうぶん発揮し、自己実現が図られるように留意し指導に当たってきた。

喜々として植樹している子供たち。特に、スコップをふるい一生懸命植樹しているY児の姿に、よくここまで成長してくれたといううれしさを感じた。

六月の那須甲子少年自然の家での宿泊学習。四班の班長に選ばれたY児は、心のやさしい子だが自己中心的で、逸脱する言動がよく問題とされ、リーダーとしては適格ではない子であった。

しかし、この機会を最大限に生かしてその持てる能力や個性を生き生きと発揮させ、リーダーとして育てようとわたしは考え、指導に力を入れた。

事前、宿泊、事後の活動をとおし、Y児なりに提案したり、班をまとめるよう指導をした。自己中心的な言動がなかったとはいえないが、二泊三日の生活は、体力を生かし先頭に立ってのオリエンティーリング、班員の健康を気遣いながらの山登り、楽しい中にも規律ある生活をと考えての言動など、今までのY児の動きとは数段違うものがあった。分担した仕事を責任をもって果たし、情緒の安定がそこにみられた。班員も班長のいたらないところを補い仲良く助け合い励まし合って活動を遂行しようとする態度があらわれていた。

Y児が班員の協力のもとに班長として活動したことは、ひとりY児のみでなく、学級全員にも好影響を及ぼした、

目的実現への努力、責任感、強い意志力が培われ、思いやり、助け合い、いたわり合いという人間関係のあり方にも関心が高まった。

Y児の「おれだってやればできる」という自信は、その後の学習面にもあらわれてきた。小集団での学習面でも中心となって話し合いや学習をすすめ、発表や質問が多くなってきた。また、毎日の日記への担任のアドバイスに敏感に反応し奮発するようになり、教科や特別活動の学習でも、徐々にではあるが受身から能動へと変容しつつある。そして、連日、自主学習のノートが担任のわたしのところに提出されている。

Y児のみならず、どの子も能力に応じて活動し、それぞれ成長のあとをみせてくれている。

 

子供とともに選んで植えた「ゆずりは」は小さ吃しかし、この木に子供たちや親、教師の願いがこめられている。

 

すくすくと育ち、やがて深くこい緑の樹となるであろう。その成長を、子供たちも自分のことのように見守っていくにちがいない。間もなく巣立つこの子らが、小学校で培った力をもとに、さらに新しいよいものを積み上げ、たくましく、大きく伸びて欲しいと、ひたすら願うものである。

 

二〇〇一年一月一日、二十一世紀の第一日に、この「ゆずりは」のもとに集い、タイムカプセルを開くことになっている。

(塙町立塙小学校教諭)

 

たくましく、大きく伸びよ

たくましく、大きく伸びよ

 

 

 


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