教育福島0050号(1980年(S55)04月)-036page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

知っておきたい教育法令

 

判例紹介(1)

 

最近、本県関係の学校事故に関する二つの判決があったので、今回と次回の二回にわたり、それぞれの事件の概要、判決の要旨を紹介するとともに、簡単に解説を付したい。

一、小野川湖ボート転覆事件

(一)事実の概要

昭和四十五年七月二十六日、裏磐梯小野川湖畔で県立川俣高校三年C組がクラスキャンプを実施中、モーターボートで対岸に渡る際に、定員オーバー(定員七名に対し、十四名乗船)のため転覆し二名の女子生徒が溺死した。このため、一名の保護者が県を相手に損害金の請求をし、第一審では保護者が勝訴した。ところで本件キャンプの計画、実施の経過には次のような事実があった。

(1)県立川俣高校では昭和四十一年以来、三年生が高校最後の夏休みを利用して友情を深めよい思い出となるような企画として小野川湖畔でキャンプをすることが毎年の例となっていた。

(2)この企画は生徒の自主的、自発的な活動によることとされていて学校において編成された教育課程には位置づけられていなかった。

(3)本件キャンプについては、六月ころからホームルームや他の授業時間等を利用して話し合いが行われた。

(4)本件キャンプには、在籍五十二名のうち、三十九名が参加することとなり、引率教諭として三名が当たることとなった。

(5)学校長は、本件キャンプの実施について生徒の保護者に対し「三年普通科(B、C、D)クラスキャンプについて」と題する書面をもって参加の承諾を求めた。

(6)クラス担任は、計画立案に際し指導助言を行い、その実施につき行事計画書と「旅行その他の伺い」を学校長に提出してその決裁を得た。

(7)学校長は引率教諭に対し、職務に専念する義務の免除を認め旅費はPTA費用の支出によることとした。

(8)本件キャンプは本件事故の発生により七月二十六日をもって打ち切られたが、引率教諭は七月三十一日付でキャンプ実施に関する復命書を学校長に提出した。

また、モーターボートに乗船するに当たり、引率教諭は船頭に対し「大丈夫か」と尋ねたところ、同人が「大丈夫だ、乗ったらよかんべい」と答えたので乗りこんだという事実があった。

(二)判決の要旨

本件での争点は、まず本件キャンプの実施が川俣高校の教育活動にあたるか否かについてである。この点について判決は「前段認定の事実関係(前記(1)ないし(8)の事実を指す。)によれば本件キャンプの実施は、ホームルームの内容としてのレクリエーションであり学校長の承認のもとで行われた特別教育活動である」とし、この「キャンプが三年生の四クラスのうち三クラスだけで実施されしかも任意参加であり参加しない生徒が欠席の取扱いになることはなかったこと、実施の期日が夏季休暇中であったことは右認定(特別教育活動と認めること)の支障となるものではない」、なぜなら「教育課程に位置づけられた領域以外にも学校の教育活動として、いわゆる課外指導の存することは明らかであって、出席が義務づけられ、卒業認定にも考慮の対象とされるものだけが教育活動であるとする理由はないからである」と判示した。

次に問題になったのは、引率教諭の過失についてであるが、この点については第一審の判断を引用している。(第一審判決は「Aには引率教諭として第二あさぎり丸の定員を確かめ、定員を超えることとなる場合には、その数の生徒を下船させ、生徒らの安全を図る注意義務を怠った過失がある」と述べている。)また、引率教諭と船頭の過失との関係について第二審は「たとえ右船頭の乗船指示ないし許容があったとしても未成年者である高校生の集団キャンプにおける引率者として、すでに多数の者の乗船によって転覆の危険の予知される状況のもとにおいて生徒らに下船を促すこともせず、自らも続いて乗りこんだ点において同教諭の過失は重大であり…本件事故は右両名の過失が相まって発生したものというべきである」とし、共同不法行為(民法第七一九条参照)に当たると判断して、第二審でも保護者が勝訴した。

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。