教育福島0051号(1980年(S55)06月)-036page

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知っておきたい教育法令

 

判例紹介(2)

 

一、いわき中央高校生溺死事件

(一)事実の概要

昭和五十年七月二十七日(日)いわき中央高校(夜間定時制)のA教諭及び同高校三年一組の生徒らがいわき市平豊間地内薄磯海水浴場附近の砂浜においてキャンプをしていた際、同クラスの生徒のMが右キャンプの場所の近くの遊泳危険海域で遊泳中、高波と強い引き潮に巻き込まれて賜死した。このため、Mの両親が、本件事故はA教諭の職務遂行の際の過失によって発生したものであるとして県を相手に損害賠償を求めた。

ところで、本件キャンプ実施にいたる経過には次のような事実があった。

(1)同年六月初旬ころ、クラスで夏休み中キャンプをしようという話がでた。そこでクラス委員長外一名が責任者となり、ホームルームの時間、自習時間等を利用してクラスの意見をまとめ、同月中ころ参加者の費用でキャンプを行うことに決った。

(2)同月初旬ころ、キャンプの話しを聞いたA教諭は、学校としてはキャンプを行うことはできない、生徒だけでやるなら先生としては禁止できない旨生徒に対し述べた。(A教諭は当初キャンプに参加しない予定であったが、結局参加することになった。)

(3)当時、いわき中央高校においては生徒の私的な校外活動についても事前にこれを把握し、指導するため一定の手続きとをかよう生徒を指導していたので、本件キャンプについても参加者の保護者から「教職員派遣要請書」、「キャンプ行事参加申請書に、「父兄の承諾書」の提出を受け、またA教諭も校長に対し「休業中における校外活動実施計画書」を提出し、本件キャンプ参加につき校長の承認を得た。

(4)A教諭は、キャンプ当日校長の出張命令を受けず、職務専念義務免除の申請手続きもとらずに参加した。

(二)判決の要旨

本件でも、本件キャンプの実施がいわき中央高校の特別教育活動に当たるか否かが争点となった。判決は「高等学校の教育課程は文部大臣の定める学習指導要領に準拠し校長が編成するものであるから本件キャンプが特別教育活動であるというためには、いわき中央高校の校長が本件キャンプを教育活動として決定ないし承認したことを要する」ところ「右決定ないし承認をしたことを認めるに足る証拠はない。」かえって、前記(1)ないし(4)の事実からみると「本件キャンプが特別教育活動ではなく単にいわき中央高校三年一組の生徒らの自主的な校外活動にすぎない」と判断した。しかしA教諭の本件キャンプ参加行為は「本件キャンプ参加者の保護者らからの派遣要請に基づき、校長の承認の下に生代指導のために本件キャンプに参加したものであるから…教育活動の一つである校外生徒指導と認めるのが相当である。」として、その職務性を認めた。

次に、A教諭の過失について判決は「本件キャンプに参加した生徒らは、自主的に危険を回避し、危険海城に入らないと期待することができるから」A教諭は「危険回避のための一般的注意を与えれば足り」るところ、「A教諭は二十七日朝本件事故発生前生徒らに対し海水が冷いから海に入らないよう注意を与えている」から、何ら過失はないと判示した。

以上の理由で原告の請求を棄却した。

二、両判決の問題点

(一)両判決理由に共通していることは当該キャンプが学校の教育活動に当たるか否かについていずれも校長の決定ないし承認の有無が決定的な要件になっているということである。教育課程に位置づけられている活動かどうか職員の勤務形態等(出張、職専免等)はその判断を左右する要件とはなっていない。その意味では、校外活動を行う場合学校が学校の教育活動として明確な責任をもって行えるような決定、承認手続の整備が要請されると思われる。

(二)前記一の事件での判決がA教諭のキャンプ参加行為を校外生徒指導であるとしている点には、当日が勤務を要しない日であることや、校長の承認の内容(職務として命ずる趣旨か、単に参加することについて承知したという趣旨等か)が不明確なことからいって疑問なしとしない。しかしいずれにせよ、校長の承認には明確性とそれに応じた適切な措置が必要であるとはいえる。

 

 

 


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