教育福島0054号(1980年(S55)09月)-025page

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随想

ささやかなよろこび

桑名莞爾

 

壇する子供へと注がれる。発表する子の目はかがやき、一瞬みんなは緊張する。

 

「作文発表」ひときわ大きく司会の声が講堂にひびく。とたんに、児童の顔がほころび、一人一人の目は登壇する子供へと注がれる。発表する子の目はかがやき、一瞬みんなは緊張する。

今朝は二年生の発表、担任の湯田先生はお休み。はて、大丈夫かな?みんな不安そうな顔をしている。そんなことに無とん着に、政秀君は先生の代わりになって話し出した。「きょうは二年生の発表です。このまえ、くわしくすることばの勉強をしました。くわしくすることばには、形、色、大きさ、たとえなどがあります。これから、このくわしくすることばを使って書いた遠足の作文を発表します。どこがくわしく書けているかきいてください」

はじめは、大がらな昌彦君。題は、「ぐらぐらゆれたつりばし」大きな声ではっきりと朗読ができた。みんなはにこにこして聞いている。さっきの不安はふっとび、大きな拍手が講堂いっぱいに広がった。

教室にもどって、発表のことについて話し合う。内容はどうか。態度はどうか。六年生ならどうするか。そして自分だったらこうするという意気込みとめあてを持たせる。二年生の教室では“たいへんじょうずにできました”という賞状が贈られているはず。発表者は、きっとうれしいにちがいない。よし、こんどはぼくの番だぞ。じょうずに書いて発表しよう。意欲満々で作文に取り組む。この意欲を大切にしなければと常に思う。

国語の授業、その中での作文指導。これだけで意欲的に書かせるのは容易ではないと反省して以来、授業を支える実践にも力を入れてきた。他教科との関連を図っての取材活動の日常化。基礎作文との関連を生かした短作文活動。毎週土曜日の作文発表会。家の人にも読んでもらう学校文集の発行などがそれである。特に、週二回設定し、書く場と書く機会を与えた短作文活動(五行作文)は効果的である。十分間で書き、あとの五分間で順に発表し合う。六年生のルミ子さんは、最初「先頭に立つ」という題で次のような短作文を書いて発表した。

「六年生になって、まだ十日もたっていない。でも、とってもいそがしい毎日である。そうじでも班長さんになって、一年生のことをみなければならないのでらくではない。委員会でも、委員長になってしまった。六年生はみんなの先頭に立っている。私たちがなまけていてはいけないのだ。いっしょうけんめいやって、みんなの役にたつようなことをしたいと思う」

この子はその後“はずかしさをなくす”“かんけいない人でも”“たのしかった音楽集会”“四角い空から大空へ”“気に入らない楽器”“公平に見てほしい”“小さな生命から大きな生命へ”“一りんの花”“入りたかったプール”“おばからの贈りもの”“へっていくお金”…と、自分の主張をつぎつぎとつづった。私はこの作文帳を読み、放課後の教室で独り大きなため息をつく。どの教室でも、担任はきっと同じ体験をしているにちがいない。

四年目を迎えてますます力の入る作文指導。“継続は力なり”とは、だれでも口にすることであるが、それは容易ではない。これまでのささやかな体験からすれば、子供によろこびを持たせること。新しいめあてを持ち、それに立ち向かうよい方法を教えること。そして活動できる場を与えて励ましてやることが、継続する潤活油であると思う。ささやかなよろこびから、更に大きな確かなよろこびとなるよう、先生がたとスクラムを組みがんばりたいと思う。

(田島町立檜沢小学校教諭)

 

よろこびのある授業

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