教育福島0054号(1980年(S55)09月)-027page

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随想

 

ひらかれた心

 

漆間幸子

 

漆間幸子

 

「修学旅行のエピソードを寸劇で行います」と、進行係の生徒のアナウンス。間をおかず、三年二組の男子生徒五名が登場、ステージいっぱいに思い出の場面を再現する。

「進ちゃんシリーズ第一 特急列車ひばり号での朝食」

原稿なしの演技である。ユーモア溢れたテンポの速い場面の展開に、生徒たちの目は輝き、明るい笑いと拍手のうず。全校集会は楽しい、なごやかな旅行の雰囲気でいっぱいになった。

(とうとう、集会で即興劇を演ずるまでになった。)

 

ふり仰ぐ安達太良を背に目の前にひらけた田んぼをよぎり、南北に貫く東北自動車道、その上を流れるように行きかう車の列々…。緑ゆたかな眺めのよい環境に恵まれたこの学校に赴任したのは三年前のことでした。

初めて接した生徒たちは、素直で、純朴そのものでした。朝夕列をなし登下校する自転車通学の姿はさっそうとしており、頼もしく思われました。

ところが、この生徒たち、話しかけても、気軽に答えが返ってきません。にこにこしているだけで、思ったことをすぐに言いまぜん。

どうしたことだろう。なんとか、気軽に自分の思っていること、考えていることを人前で話せるようにできないものか、と思ったものでした。

そんな折、たまたま集会指導の役割が私のところにまわってきたのです。責めの重さを感じつつも、この集会をチャンスに、より多くの生徒に発表の場を与え、話をすることへの抵抗をとりのぞき、自信と喜びを持たせてやろう、とひそかに心に決めたのです。

以来、毎週月曜の全校朝会をはじめ各種の集会に、進級のよろこび、学級紹介、中体連に出場してなどのテーマでいろいろ発表させてみました。

時を同じぐして「ゆとりと充実」が叫ばれ、あらたに生徒活動の時間が実現し、学年集会、全校集会を生徒の手で運営させ、生徒の活動を意欲的にしていこうという考えが、学校運営の中に盛りあがってきたことも幸いしました。

各学級から二名の委員で構成する集会委員会を設け、毎週定例の委員会を持ち、内容、手順、方法を指示し、集会計画を立てさせ、集会運営に当たらせたのです。

一抹の不安はありましたが“案ずるよりは”のたとえのとおりでした。手ぎわよくできるではありませんか。発表内容や発表者を決め、発表者に原稿を依頼し、日程を決めてタイム計りのリハーサルもはじめるではありませんか。集会委員の活動に誰もが目をみはりました。

「先生、来週は、二年二組の学級紹介です。連絡とって計画します」

と自主的な声がかかるようになりました。何もできない、話しかけても答えがもどってこない、黙っているなどと思っていたのは、生徒を活動させなかったからなのです。

現代っ子は、やらせるとどんなことでも無難にまとめ、さわやかに仕上げてしまうすばらしい力を持っていることがよくわかりました。

中学生はやる気を出せば、すばらしい創造力と発表力を発揮するのです。

 

きようも集会委員は来週の集会計画をしています。

「進行係は誰にしますか」

「二組の学級紹介のあらましを説明して下さい」と。

(本宮町立本宮第二中学校教諭)

 

真剣な集会計画

真剣な集会計画

 

 

 


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