教育福島0054号(1980年(S55)09月)-033page

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イナスである。平あたりだと便利である。

 

四 母学級でのようす

 

母学級のK先生がわざわざ平二小まで来てくれ、授業参観をしてから懇談した。

障害に対して学級内でいろいろ配慮してくれていることを聞き頭の下がる思いがした。隣の席には親切な女の子をすわらせ世話係にしているということである。

授業中に先生の話がわからなかったりすると前に出てくることがあり授業が中断することもある。

「あとで話してあげるからね」

といって席にもどすことがある。どのように説明したらわかってくれるか表現方法で苦労することがある。

学級の友だちには耳が遠いことについて話しているので現在のところあまり問題となることはなくうまく適応しているようである。

 

五 指導方針

 

(一)耳かけ式補聴器装用になれさせる。更に、増幅音になれさせながら、聴覚疲労による感度低下に十分注意する。そのため定期的な聴力検査の実施、耳鼻科医と連絡をとり指導、助言を受けるようにする。

(二)初期の診断の失敗などから幼児期の保育にかなり問題があった。社会成熟が遅れており対人関係や行動、性格などに問題をおこすことが予想されるので母親や母学級との連携を密にし指導に当たるようにする。

(三)聞きとりの異常、言語発達の遅れなどのために、国語などの言語要素の多い教科の遅れが目だっている。治療的な指導を加味しながら援助していくようにする。

(四)読書力診断検査の結果から語いが不足していることがはっきりしている。生活経験を豊かにさせながら語いの拡充と活用能力を高めるようにする。

(五)環境音、楽器音、声、語音などを使って聴能力を高め弁別力をつけようにする。

(六)難聴学級での限られた時間で多くを望むことは無理である。母学級や家庭の協力がなければ効果を期待することはできない。担任との懇談、母親指導にも力を入れるようにする。

 

六 指導の概略

 

四月 母親から生育のようす、学級での学習や生活のようす、本児の問題点などを聴取する。

補聴器の装用指導 大体一人でできるようになった。適正音圧の決定場面に応じた装用の工夫、母親に対しては管理及び維持について指導。

楽器音を聞き指示された行動をする例えば、タンブリン、たいこ、トライアングル、木琴、鉄琴、カスタネットピアニカなどの楽器を聞き数を答えさせる。強弱、長短、速さなどに変化をつけて聞かせる。また、楽器音をあてさせるなどの練習もした。

五月 ことばを聞き復唱させる。

三音節単語、四音節単語、音節数のちがうものを組み合わせて聞きとりの練習をさせた。

反対語・対語「夏はあついが冬はどうですか」という教師の質問に答えさせる。「寒い」という語を引き出させてすぐ次へ進むのではなく、類似語などの例を出して使い方を練習させた。つめたいすずしいなど。

発音の練習、単語だけの練習はあきてしまい長続きしなかったのでことばを使ったり、音読の中で練習するといった方法によりできるだけ興味を持たせるようにした。単音ではできてもことばの中ではうまくできないことが多かった。

六月 語音聴力検査の結果から異聴傾向をまとめてみた。(頻度数の多いものだけ)

キ→シ、イ、チ/ケ→テ、デ/コ→ホス→ツ/セ→テ、デ/タ→バ、マ、ハ/チ→キ、イ/ナ→マ、サ/ニ→ミ、イネ→メ/ハ→カ/ヒ→イ/フ→ツ/ホ→コ/ラ→サ、カ/リ→ミ、テ/ル→ツ/レ→デ、メ/ロ→ト

発音の練習 Sインジケーターを使ってサ行者の練習をさせた。ランプの点滅に興味を示していたがすぐあきてしまいあまり効果がなかった。発音の練習は拒否反応を示すようである。

七月 ことばの聞きとり練習。ハ行音の場合、ホタル→コタル、はっぱ→かっぱ、ふく→うくのようにほとんどカ行音に異聴していた。日常よく使っていることばは異聴しないで正しく開きとっていた。何回もくりかえし、くりかえし練習させることが最良の方法である。

 

七 まとめと問題点

 

指導をはじめて間もないことなので効果とか進歩といったものはあまり出ていない。しかし、担任として一番うれしかったことは教室に通級してくることが楽しみで、かぜで寝ているときでも「平の学校は?」と気にするほどだという。三年生としては幼稚な面も見られるがすなおな子で今後が楽しみである。

聾児と難聴児を持つ母親の苦労は大変である。勇気づけはげましてあげると同時に適切な助言も必要である。

家庭では声の大きさ、高さ、速さ、距離、方向、抑揚、話の内容などに気をつける必要がある。また、近隣社会への協力を得るようにすることも大事なことである。いつも行く店やとなり近所の人々に対しても十分協力を得るように日常つながりを持つことが大切である。

母親が自動車の免許を取るために特訓中である。自家用車で通級できるようになれば通級回数を多くすることも可能であるし、時間を有効に使うことができるようになると思われる。

 

 

 


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