教育福島0056号(1980年(S55)11月)-024page
随想
進路決定のころ
佐藤公一
毎年九月になると、三年生の教室が活気づき、雰囲気も変わってくる。高校入学後、あまり目的意識を持たず、惰性で通学しているような生徒もいないわけではないが、進路決定の時になると、だれもが無関心でいられないようである。
都市部の大規模校と異なり、本校のように山間部の小規模校では、自然環境に恵まれすぎ、刺激がないためか積極性に欠け、自分で考える力や強じんな意志力を備えている生徒があまりみられない。しかし、彼らも現在では「人生において、幾つかの選択を強いられるが、職業選択ほど重要なものはない」ということを実感として受けとめているようだ。だが、生徒自らが、「選択・決定」を行う能力を本当に身につけたのかどうか不安であり、この時期には、いつも進路指導の重要さを認識させられている。最近、地元就職希望の増加がみられるようになった。このことについて「県内就職者が全体の六割の大台を超え、また希望者の大部分の望みがかなえられた」と新聞でも報道されている。
本校が一学期に進路指導の一環として行った三者懇談でも、「父親が年間を通して県外に出稼ぎに行っているので、家の中心として息子は地元に就職させたい」「県外に就職している長男が、地元に就職先がないため帰れないでいる」「娘の一人は手元に置きたい」と希望する親が多くなり、子供を地元におきたいという親の強い意向が明らかになっている。
しかし、現実には、本校の位置する地理的条件を考えると、地元就職希望の増加に対する指導には、困難な面が多い。当地区は、冬季間県内でも有数の豪雪地帯にあり、工場立地条件が悪く、卒業生の就職先の受け皿としての企業がない。また町役場を含めた公務員関係も、大学生との同時受験の結果として、高校生は締め出され、選択の幅はより限られてくる傾向が強い。
この現状に対して、親は職種では妥協しても地元におきたいという強い願望をもち、他方生徒自身は、理想とする職種を求め、この対立が生徒指導の問題に発展する場合も少なくない。
職業の選択、決定時期になると思い出される生徒がいる。
学習意欲がなく、ややもするとバイクのみに関心をもち、欠席日数が多くなり、原級留め置きの憂き目にあったが、進路を考える時期になると、目的意識を強くもち、生活全体に落ち着きがみられるようになった生徒。
入学時には最上位の成績にあり、大学進学を考えていくが、家庭の事情により進学を諦め、安易に地元就職の道を選び、成績、生活面で問題を残して行った生徒。このような進路問題が、生徒の生活全体に大きな影響を及ぼした例は少なくない。
地元就職希望が多くなりつつある現在、このような問題に対して、更に積極的に取り組む必要がある。
その方法として、通勤可能な企業の職場開拓はもちろんのこと、数年後は地元の営業所に転勤可能な職場を推薦する。あるいは、地元で需要があるとみられる職種の資格を得るため、就学進学を勧める等の方法を講じ、親と生徒の摩擦を少なくしたい。
生徒自らが、「選択・決定」を行うとき、障害となる要因はいろいろあるが、この障害を除去し、自分の持つ能力、適性、個性を認識し、自分にあった適切な職業選択ができ、卒業後の自己実現に向かって絶えず向上心をもって生活できるよう、生徒一人一人の努力に期待したいものである。
(福島県立西会津高等学校教諭)
どうしようかナァー