教育福島0056号(1980年(S55)11月)-028page

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わたしの研究実践

 

新しい書道の分野−刻字−

福島県立福島女子高等学校教諭

網代春朋

 

一 はじめに

 

四年ほど前、函館の南北海道教育センターにおいて、文部省主催の芸術科書道指導者養成講座が開かれました。その機会に、刻字のあり方についていろいろ勉強をしてきました。

当時は刻字も「生活書」の一分野として陶器の書・ろうけつの書などと一緒に工芸的な、趣味的な中に入っていたわけで、何かむずかしい教材、手数のかかる教材というイメージが強かったように思います。しかし、その内容が高等学校の書道の教材として、芸術性の伸長にきわめて重要な意味をもつことを知りました。

今回の指導要領の改訂で、刻字や、篆刻(てんこく)がはっきりとうち出されたのもそのような意義があったからなのでしよう。

考えてみれば、高校の書道も半紙に筆で四文字、六文字を書いていた二十年前とはだいぶ内容も変わり、それまでになかった漢字かな交じりの書・墨象・象刻や刻字・ろうけつの書など表現様式が大幅に進展したわけです。

 

二 指導計画

 

本校における書道の指導計画の骨子は、書体ごとに編成していることで、その書体について各々理論、代表的作品と筆者、臨書、創作、応用、鑑賞に分けて指導しています。また、刻字も隷書(れいしょ)の応用教材として設定しています。

 

三 刻字の授業

 

書道Uの隷書の曹全碑や孔廟礼器碑の臨書もすみ、五言絶句を条幅にまとめるのが終わるといよいよ刻字です。

(一) 草稿(配当一時間)

作品の発想はまず素材となる文字を選ぶところからはじまります。そして表現しようとする大きさ(SM=絵画の号数に統一しました)に合わせた紙に草稿を書きます。この行程は作者によっては省略され、一挙に感動やイメージをそのまま直接板などの材料に書く場合もありますが、高校の指導過程では草稿は是非とも必要なことです。草稿は、太さに注意をしなければなりません。凸か凹かその彫り方によっても、また、表現の意図によっても太さを考えなければなりません。

一般には朱文(文字を残す)のときは細めに、白文(文字を彫る)のときには太めに書いた方が効果的で、これはバックと彫られる文字の表現効果とがともに大きくはたらきあっているからです。しかも刻字においては、線の表現に一つの限界があります。すなわち刃物によっての表現でありますから生徒の草稿はあまりにじまない紙を用いなければなりません。

例えば、和紙に筆で線を引いたと仮定します。線のまわりにできるにじみは、その線を適度にかくすはたらきをもっています。これは一つの味わいと見ることができますが、逆の立場から見ると本来の線をかくし、ムード的であいまいな知覚印象をかもし出すはたらきをしているわけです。もちろん書道ではこれを否定しているわけではありません。刻字ではこのようなムード的なあいまいさは許されないのです。彫るか、残すかを決断しなければならないからです。切り落してからでは間に合わない厳しさがあり、真剣さがあります。それを考慮して草稿を書かなければなりません。

 

感興に応じて文字を選んだ例

感興に応じて文字を選んだ例

南無妙法蓮華経

 

(二) かご(籠)字(配当一時間)

かご字とは、草稿をもとにして薄い和紙に文字を写して、その輪廓のふち

 

 

 


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