教育福島0056号(1980年(S55)11月)-029page
取りをすることです。
印刷機のなかった時代に、重要な書跡を複製するのに盛んに用いられた方法でもあります。また古法帖にもこの方法で取ったものもあります。
この操作はきわめて重要であり、ただ写せばよいということではありません。ノミを使用して彫るということを前提とし、刀意を考えてかご字を取るのです。
作家によっては、書いた肉筆を直接木などの材料に貼布してこれを彫る人もいるようですが、書道教育においては是非ともかご字を取る方法が望ましいようです。文字をもう一度見なおす機会があるからです。
(三) 彫字(配当三時間)
時間配当を十分生かすために、白文を扱いました。これは作品処理のとき時間が少なくてすむからです。
彫り方は種々ありますが、市販の彫刻刀を使うので特に指定せず自由に彫らせました。刀意をなくさないためにこまかく彫りすぎないようにだけは注意しました。
拓本の法帖を臨書する場合、刀意を筆意に変えて表現することにしています。彫字は、筆意を刀意に変えて表現することです。この変換は臨書をより正確に、より精密にするための大切な過程であると考えてよいと思います。
このようにみてくると筆と刀とは、きわめて密接な関係を持つことがわかり、書道の領域を単に筆墨硯紙の世界にのみ封じこめ、閉じこめておくことは、どうしてもできなかったことがよくわかります。
生徒もこの彫りに入ると一段と神経をこまやかにして作業を進めるようです。目がかがやき、熱中して吐息だけが聞こえたのも久しぶりでした。
大部分の生徒は三時間で彫りあげましたが、字数の多い生徒、刃の切れない生徒は少々遅れたようです。
(四) 着色(配当一時間)
着色をしないのも一つの方法でありますが、はっきり見えないので着色をしました。市販の水彩絵の具(白・緑・青・赤等)に少々ニカワを入れ、面相筆で着色しました。塗っては乾かしまた塗るという操作をくり返しましたが、三回くらい塗るときれいになるようです。
生徒は、文字の立体感と色彩とからくる美をつくづく味わっていたようです。また仕上がった満足感に浸ってお互いに喜びをかくせなかったようです。
四 おわりに
刻字は、既にわたしたちの暮しの中で機会あるごとに見ることができるようになりました。
古代の歴史をひもとくまでもなく、洋の東西を問わず、石や木、竹、骨、土などに絵や文字が刻まれたことは、すでに知られています。
今日、もっとも多く見られる碑や木額などは半永久的な保存の方法として紙に書いたものに比しはるかに寿命が長く、作家の執着は強いようです。生徒も紙に書いたものに比べ作品を非常に大切に取り扱います。
ここに在来の「書」作品の視覚主義から発展して触感主義への要求が生まれました。
それが「手造り」のあこがれと-草稿から着色まで-だれの手もわずらわすことなく、自己の力で最後まで仕上げる喜びを、いま現実の姿として見得たことを、一教師として本当に満足しております。
生徒の作品例
月落鳥啼霜満天
閑居幽事多
思無邪