教育福島0058号(1981年(S56)01月)-034page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

一つの古典文法指導(国語) 福島県立安積高等学校教諭 橋本佑一郎

 

はじめに

本校は、県下でも有数の進学校として知られている。しかし、優秀な生徒ぞろいのはずのわが高校でも、古典、なかでも古典文法を苦手とする生徒は多い。

秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる (古今集 藤原敏行)

右の歌の「来」を正しく読める者が一年次で約六〇パーセント、なぜそう読むのかの根拠を正確に説明できる者に至っては約三分の一にすぎない。

正確に読めなければ正確に解釈できないことはいうまでもないし、正確な解釈なくしてはそれを土台とする鑑賞や発展的思索などかなうべくもないということは論をまたない。

新指導要領では、古典文法の指導については、国語1)の段階で系統的に行うことは望ましくないとしている。しかし、ある程度系統的に行っている現在でさえ生徒は文法を苦手としているのに、これでは文法嫌いがますます増えるのでは、と将来に危惧の念を抱かずにはいられない。

 

一 文法指導の重要性

私は、古文を読み味わうためには、古典文法、とりわけ助詞、助動詞に一年次の当初から徹底的に習熟しなければならないということを持説にしてきた。簡単な例でいっても、例えば、百人一首「長からむ心もしらず黒髪のみだれてけさは物をこそ思へ」(待賢門院)の傍線部をどう解釈するか。助詞の知識のないものは「ものを思いなさい」と必ずやってしまうし、伊勢物語東下りの中の「日も暮れぬ」を「日ぞ暮れぬ」としたら正反対の意味になるということだって気がつくまい。また源氏物語若紫の巻の「子なんめりと見給う」の「めり」一語によって光源氏がのぞき見し、目で見てそう判断しているのだということ、あるいは「起きなどしぬなり」の「なり」一語によって光源氏が注意深く耳を澄ましている光景や心情を表現しているなどといったことは、全く理解できないだろう。

このような例は、枚挙にいとまがない。一つ一つのことばに即しつつこのような微妙さを味わい分けることがあるのであり、これを土台としてはじめて「昔の人の人情の機微にふれる」ことも可能となるのであり、ひいては今切実に求められている「人の気持ちの襞(ひだ)までわかる」人間の育成に資することにもなると思うのである。

 

二 文法指導の実践

以上の考えをもとに、昨年度から行ってきた文法指導の経過の一端を以下に紹介したい。ただこれを実践に移す前に、同じ学年を担当する国語科の先生がた(私の他に二名)に私の意図を十分に説明し、納得と了解を得たうえで協力してもらう手順を踏んだことはいうまでもない。(教師相互の共通理解によるチームワークがいかに大切であるかということを、私はこの実践を通して痛感し続けてきた。)

私の文法指導の方針は、次のとおりである。

(1) 易から難へ、基礎的なものから応用的なものへ段階的に系統的に理解させていく。

(2) 暗記させるべき事項は暗記させるが、機械的な棒暗記は極力避ける。

(3) 助動詞の意味は、最初の段階では代表的なもの二、三にし、特殊なものは教科書本文に出て来たときに説明を加えていく。

(4) 文法書による系統的指導をひととおり終えた後で、助詞、助動詞の識別問題・解釈力問題のプリントを与え、最終的に解釈力に結びつく文法力、高度な文法力の養成をめざす。

(5) 理解させた後は徹底した反復訓練をする。その際学年の全員が一定のレベルを保ちつつ向上していくように配慮する。

また、(4)の助詞、助動詞に関して具体的に準備したプリントは次のとおりである。

1)助動詞一覧表 2)助動詞識別問題及び解説と解答 3)助詞識別問題及び解説と解答 4)助動詞解釈力問題及び解説と解答 5)助詞解釈力問題及び解説と解答

以上のプリントで段階的に一年生全員にテストしていった。その際正解八○パーセント以上の者を合格とし、不合格者は合格するまでテストをくり返した。更に各段階で応用問題を一斉に課し、全員が合格するまでテストをくり返した。(この応用問題による一斉テストは、文法のみならず漢字、漢文基本句型、文学史も含んだもの。合格者にもより高度な問題を課すなど、習熟度別指導を実施してきた。)

例えば、第一回目の一斉テスト及びその追試結果は、表1のとおりであった。

ところで先にあげたプリントの中で生徒が理解するのに最も困難であったのは、2)の助動詞識別問題であった。これを理解した生徒は、訓練を積めば比岐的スムーズに解釈力問題もこなせるようになるのである。

生徒は助動詞識別のどういう点に困難を覚えるのか、また理解の度合いはどのように進んでいったのかを示す資料は表2のとおりである。

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。