教育福島0060号(1981年(S56)04月)-044page

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こぼればなし

 

およそどのような種類の雑誌でも、巻頭言に当たる部分は、文字通りその雑誌の頭に相当する。表紙が顔であるように、顔であるから化粧をしておきたいように、頭としての巻頭言には、それなりの響きが要求されるものだ。響きの余韻が、内容を導いてくれるものであれば、それにこしたことはないからである。したがって、編集者は、どのようなかたに執筆を依頼したらよいか、でかなり苦労をするものだ。文章の上手い下手はどうでもよいが、やはり、心のこもった文章を書いてもらいたいわけである。そのためには、肩書だけで依頼してもいけないし、相手の都合なども考えなければならない。

今号の巻頭言は、岩間芳樹氏にお願いしよう、と思ったまではよかったのだが、いざとなるととるべき術がない。氏は、編集子の前任校の卒業生であり、大学の先輩でもあるが、以前に一寸した機会にお目にかかっただけで旧知の間ではない。まして、名のある作家で、多忙なのはわかりきっている。氏のことが紹介されている雑誌では、五月に中国、七月にはフランスへ取材旅行に出かけるという。

迷ったあげくに手紙を差しあげることにした。参考のために本誌二・三月号を同封して、「御多繁だとは思うが巻頭言の執筆をお願いできないだろうか。もしも、御理解いただければ{あらためて教育長名で依頼したいのだが、御都合はいかがであるか」というような内容の手紙であった。いわば、都合を問い合わせたのであった。

一週間ほど経ったであろうか。編集子あてに書留便が届けられた。差出人は、「岩間芳樹」となっている。中身は、なんと巻頭言のための玉稿そのものである。岩間氏自製の朱色のマス目の用筆に、「劇的なもの」としたためてある。よく見ると、氏の用箋は、二〇×一〇の、一枚が二百字詰めであるが、氏は、同封した本誌の巻頭言の一行の字数と全体の行数を数えられたのであろうか、一行を十七字に割り当てて、書かれてある。心のこもった温かい配慮である。

早速、失礼を詑びた礼状を差しあげた。その折りに、「先に送った二・三月号の表紙絵は、茂庭の雪を長いこと描いている酒井昌之氏の作品であるが、先生の故郷は福島でもあり、よろしかったら、酒井氏にお願いして…」という意味の添え書きをした。

折り返しの岩間氏の便りには、「執筆や講演など、タイミングさえ合えばお力添えになるよう致しますから、遠慮なくお申しつけください」とあった。この短い文章の中に、ずいぶんと長いこと、素通りして行ったままの、人のこころのさわやかな温かさを感じるのは、編集子ひとりだけではないはずだ。

いま、岩間芳樹氏の部屋のどこかに酒井昌之氏の手になる「雪の摺上川」の絵が掛けられているはずである。

 

あとがき

 

あとがき

 

○ 日陰の残雪も、ここにきてやっと姿を消し、窓ごしの吾妻の冠雪がやけにまぶしい。田畑は耕され、湿った体に土の匂いが快い。

 

○ 時あたかも春の風の中1「宋名臣言行録」によると、春のそよ風にのって生物が成長するように、良師の慈愛あふれる感化につつまれて、学徳の修業を助けられることを「春風の中に坐するが如し」という。

 

○ 今年の新採用は、六八三名(小・中・養護学校五八八名、県立学校九五名)。これら、春秋に富んだ若い先生には、豊かな心で子供の芽を育ててもらいたいと願う。

 

○ 春風に木を移しけり土の色

 

(ひ)

 

 

 


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