教育福島0062号(1981年(S56)07月)-021page

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随想

 

伸びろS君!

 

只野清子

 

「S君は大きくなったらなにになるの」

 

「S君は大きくなったらなにになるの」

「ボクね、大学にいって博士になって、化石を掘る人になるんだ」と真剣なまなざしで答える。

日ごろはなにをしてもみんなのあとからデコデコとついてくるS君。鬼ごっこをすればいつも一番先につかまえられてしまい、高い所からとびおりればしりもちをつき、ダンスをすれば手と足のバランスがとれない。楽器を持てば一拍おくれ、製作をすれば、他の子の二倍の時間をついやす。

しかし彼はコツコツと努力するのである。

去年のことである。折り紙で桃の花を作って飾ろうということになった。何度作ってみても納得できない彼は、なんとその桃の花をつくるのに二時間もくりかえしくりかえし、前のまちがったところをひっくりかえしながら作って、とうとう自分の納得のいく花をつくりあげたのである。他の子供たちは、とうの昔にあきらめたり、別のあそびをみつけて夢中になっていたにもかかわらず…。

今、彼はプラモデルに夢中である。目下の夢は、「戦艦ヤマト」を作ることだそうである。無器用な彼だが、あのねばり強さでプラモデル作りに没頭しているのであろう。

いくらやってもできない子は必ずいる。しかしこれをそのままみてみぬふりをしてしまったのではその子の一生の不幸である。

同じ山に二十三人の子供たちがアタックする。さっさと登ってしまう子、ノロノロしながらも一歩一歩着実に進んでいる子、もう一歩も登れない子、とさまざまあらわれてくる。そこで考えてやらなければならないのは、それぞれの子供たちみんなに、満足感を持たせなければならないということである。決して登りつめた子供だけと手をとり合って喜び満足しきってしまったのではいけないのである。

S君のようにノロノロと、一見、できの悪いように思える子にも、ぴったり合った課題をそれなりに与えてやらねば、いつの間にかもう手おくれになってしまう。

彼が入園する前に彼の父親と話し合う機会があった。その時、彼の父親に「息子は運動神経は親のひいき目から見てもゼロに近いし、他の面でもよその子からみると決してすぐれているとは思えない。だけど機械いじりが好きで、使えなくなった農機具なんかをよろこんでいじってあそんでいます。幼稚園では、この子の中にある良い面をひとつでいいからみつけ出してもらって、それを伸ばしてほしいのです」と言われたことがいつまでも頭からはなれない。

なにをやらせても無器用で要領の悪いS君ですが、幸いなことに、彼には「努力」と「根性」が、人一倍あります。だから、きっと将来はみごとに化石掘りで、額に汗する日がくるにちがいない。

子供たちの、たくさんの反応の中の一つ一つに、貴重な力を見い出しながらそれをしっかり把握し、伸ばしていかなければならないと思う。

 

きょうもまた、S君のくったくのない姿が園庭にゆれ動く。

 

(小高町立福浦幼稚園教諭)

 

ワーイ 楽しいナァ

ワーイ 楽しいナァ

 

 

 

 

 


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