教育福島0063号(1981年(S56)08月)-027page
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随想
子供をみつめて
猪狩 譲
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本校は、間近に阿武隈山地が連なり東に、太平洋を望む農村地帯、緑に囲まれた恵まれた環境にある。「おはよう」「おはようございます」
子供たちの元気な声が返ってくる。朝のマラソンを終え、目を輝かせている。四年生の朝の風景である。
この子供たちの意欲を受けとめ、充実した一日を造りださなければならないと心をひきしめる一瞬である。
子供たちの意欲を受けとめ、それを昇華させてやることが、教師の大きな役割りであるが、しかし、教師は、ややもすると、前に進むことを急ぐあまり、子供の表面だけをとらえがちではないだろうか。常に子供を知ることから、はじめなければならないと思う。
その一つの手だてとして、朝の話し合いの中で、一分間スピーチをやっている。子供たちは自分の生活の中のさまざまなことを話してくれる。特に、遊びの話になると、目を輝かせ、夢中になって話してくれる。この目の輝きを大事にして、子供たちとの心のふれあいを深めていきたいといつも思う。
私の学級に、こんな子供がいる。
漢字の読み書きが不得意で本を読むこともあまり好まない児童である。しかし、彼は、魚つりが大好きであり、遊びやグループ活動では、リーダーシップを発揮する一面を持っている。魚つりに関しては、自分で、つりきちというほど研究熱心であり、魚の図鑑をあくことなく見ていることもしばしばである。母親に聞くと、家族の中で、つりに夢中になっているのは彼だけで勉強しないで困っているとのことである。
ある日、彼が、一冊の分厚い本を読んでいることにおどろき、のぞきこむと、つりの入門書であった。「読めない漢字はないか」と聞いてみると、たくさんあって困っているとのことである。漢字の勉強が大事であることを話すと、それ以来、漢字の学習をしてくるようになり、著しい進歩をみせた。
また、他の一人は、担任した三年生のときから、おちつきがなく困っていた児童である。四年生になって、クラブ活動の家庭クラブの所属を決めるときのことである。教室の中にどよめきがおこった。女の子の中に、男の子が元気よく手を上げていたからである。それが彼であった。「ふざけているのか」という非難の声もあった。「料理を食べたいのか」という声もあった。私も内心おどろいたが、もう一度、家庭クラブの内容を話して確めてみると、意志が固いのではげましてやった。家庭訪問のときに、母親にもこのことを話すと、家庭でも、料理作りに興味を持ち、いろいろなものを作り家庭を驚かしているとのことであった。
その後、心配でもあったので、クラブ担当の先生に活動状況を聞くと、熱心に活動しているとのことなので、その都度、彼をほめてやると、いつもにこにこと答えてくれる。行動も、大分おちつきがでてきている。
この二例からも、子供を知ることがいかに大切であるか、しみじみと思うのである。
教師の目は、広くみひらかれていないと、表面的なものにまどわされて、子供の本当の心を見落してしまうのではないかと考えるこのごろである。
この地域の自然の環境はすばらしい。
その中で躍動する子供たちの真の姿をみつめ、意欲あふれる子供を育てる実践にはげみたいと思う。
(富岡町立富岡第二小学校教諭)
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朝のマラソン
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