教育福島0063号(1981年(S56)08月)-039page

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地域文庫の現状と問題点

アカシヤ文庫会長

賀川玲子

 

図書館コーナー

図書館コーナー

 

私たちの居合団地は、市の中心から遠く離れた新興住宅地で、八百世帯あります。市立図書館の利用者は非常に少ないということから、図書館からの働きかけもあり、児童館ができたのを機会に、文庫を開いてみようということになったのは四年前のことでした。

しかしオープンするまでの苦労は大変でした。児童館の使用は他の集会に支障のない限りということ、文庫を誰が運営するのか、本はどうして集めるのか等の問題がまず起きました。本は市立図書館から三百冊、県立図書館の「親子読書文庫」二百冊、ライオンズクラブや個人の寄付によるもの五百冊計千冊を確保しました。運営については、福島市の「りんどう文庫」を見学したり、図書館員のかたと話し合いをして、私たちの生活学級のメンバーで行うことにしました。メンバーには若い母親が多く、子供の読書について見識を持つ人もいて、積極的に参加していただいたことは心強いものがありました。子供によい本を読ませることの必要性≠切実に感じて始めたのではないので、忙しい家庭の主婦にとって毎土曜日の文庫が続けられるだろうか、貸し出し・返却ははうまくいくだろうか、子供たちは集まるだろうか、本はなくなりはしないだろうか等の不安はありましたが、子供たちに読書の機会を与え、子供同士の健全な仲間づくり等をも願って、地域の人々や図書館の協力を得てオープンしました。

毎週土曜日午後二時から四時の二時間を貸し出し時間とし、十八人のメンバーを四〜五人一組として月に一度の当番としました。月に一度ぐらいならということでしたが、実際に始めてみると、子供の帰宅時間に家を空けること、午前中パートで働き、午後は文庫の当番等、会員の負担はかなり大きいものと感じられるようになりました。そこで、団地内に呼びかけたところ、二十六人の協力員を得ることができました。開館三十分前には、子供たちがすでに列をなしており、開館と同時に子供たちが殺到し、貸し借り作業は、まるで戦争のような状態が続き、やっとひと息ついた時は三時を過ぎています。毎回八十名から百名の子供たちが二時間の間に集中するため、本の返却、貸し出しだけに終わってしまうのが実情でした。これではいけないと考え、子供にとって良い本の選び方、読み聞かせの実際の方法等、専門の方の話をきく機会を持つようにしました。現在は四百五十名の登録者があり、特に小学校低学年と未就学児が多いのが目立ち、高学年は全体の十%程度となっています。

文庫開設一周年記念として、お母さんたちの手づくり人形劇、二周年目はお母さんコーラス、お父さんたちがゲームと歌の指導をしてくれたりして、私たちが考えていた以上に子供たちも利用し、親たちも協力を惜しまず、新しい地域づくりに一石を投ずることができたと会員一同喜んでいます。

このように私たちが考えていた以上に多くの子供たちが利用し、四年も続いていますが、私たちは考えさせられることがいくつかあります。

何といっても、子供は本が大好きということと、本が身近にあれば読むものだということが第一です。そしてこのまま本の貸し借りに終わってよいものだろうか、もっと一人一人の子供とゆっくり接し、本の選択、読み聞かせ等についても、じっくりとやりたい…毎回の当番の人の文庫日誌を読むと文庫活動に意欲を燃やしながらも、このように多くの子供たちを扱う現状について疑問や悩みが綴られています。

今私たちが願っていることは、私たちの力だけでは、この文庫の運営に限度があり、是非とも図書館の分館としてでも、専門の職員の指導と援助をうけ、いつも開かれるようにしたいということです。地域の人たちも自分たちが利用できる図書館を望んでいます。この文庫活動を通して多くのことを学びましたが、特に紛失する本がほとんどないということです。なくした子供はきちんとあやまりにきます。子供の心は本当に純真で正直なものです。今この心によい種をまくことの重要性、そしてその機会を私たちが作らなければならないことを強く感じています。

×  ×  ×  ×

私たちの文庫が今後やがて図書館の分館として発展し、子供たちだけでなく、多くの人々に利用されることを祈りながらこの文庫活動を続けていきたいと願っています。

 

 

 


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