教育福島0063号(1981年(S56)08月)-043page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

知っておきたい教育法令

 

判例紹介

 

〈前号まで〉

 

一 事件の概要

 

二 簡易裁判所の判断

 

三 高等裁判所の判断

 

(一) 事実認定

(二) 有形力の行使と暴行罪

(三) 正当な懲戒行為と有形力の行使

(四) 許容される有形力の行使の程度

事実行為としての懲戒に有形力の行使が含まれると判断した裁判所は、有形力の行使の許容される程度、範囲はどのようなものであるか、すなわち、どの程度の有形力の行使であれば学校教育法第十一条にいう体罰にあたらないかについて次のように説示した。

「一般的、抽象的にいえば、学校教育法の禁止する体罰とは要するに、懲戒権の行使として相当と認められる範囲を越えて有形力を行使して生徒の身体を侵害し、あるいは生徒に対して肉体的苦痛を与えることをいうものと解すべき」である。

そして、教師の生徒に対する有形力の行使が懲戒権の行使として相当であるかどうかは、教育基本法、学校教育法等にうかがわれる基本的な教育原理や教育指針にてらし「生徒の年齢、性別、性格、成育過程、身体的状況・非行等の内容、懲戒の趣旨、有形力行使の態様・程度、教育的効果、身体的侵害の大小一結果等を総合して、社会通念に則り、結局は各事例ごとに相当性の有無を具体的・個別的に判定するほかはない」とした。

(五) 本件行為の妥当性

被告人の本件行為について裁判所は

(一)有形力の行使にあたっていたずらに個人的感情に走らないように配慮したこと 口行為の態様自体も教育的活動としての節度を失っていないこと(三)行為の程度も口頭による説諭、訓戒、叱責と同一視してよい程度の軽微な身体的侵害にとどまっていること、を理由に「懲戒権の行使としての相当性の範囲を逸脱してKの身体に不当、不必要な害悪を加え、又は同人に肉体的苦痛を与え、体罰といえる程度にまで達していたとはいえない」と判断した。

また、教員の懲戒権の行使についてどのような方法、形態をとるかは「平素から生徒に接してその性格、行状、長所・短所等を知り、その成長ぶりを観察している教師が生徒の当該行為に対する処置として適切だと判断して決定するところに任ぜるのが相当であり、その決定したところが社会通念上著しく妥当を欠くと認められる場合を除いては、教師の自由裁量によって決すべき範囲に属する」とした。そして、この点に関しても、被告の行為は「本件の具体的状況のもとでは被告人が許された裁量権の限界を著しく逸脱したものとは到底いえない」から、学校教育法第十一条、同法施行規則第十三条により、教師に認められた正当な懲戒権の行使として、刑法第三十五条により違法性が阻却され、暴行罪は成立しないとした。

 

四 高裁判決の問題点

 

従来、有形力の行使を伴う懲戒が体罰禁止規定にもかかわらず、許容されるか否かについては必ずしも明らかにされてはいなかった。本件高裁判決が有形力の行使も、事実によっては事実行為としての懲戒に含まれ、体罰に該当しないものがあることを明らかにしたことは意義があるといえよう。

しかし、本件判決によっても、有形力の行使について、どこまでが正当な懲戒行為であり、どこからは体罰となるかは必ずしも明確でない。すなわち、すでに判決文から引用したように、体罰となるのは、懲戒権の行使として相当と認められる範囲をこえる有形力の行使の場合であり、その範囲は、生徒の年齢、性別、性格、非行の内容等のみならず、有形力行使の態様・程度、教育的効果までも考慮し、しかも社会通念に則り、各事例ごとに具体的、個別的に判断するほかはないのである。

したがって、本件判決が実際上教員が懲戒を行う際の判断材料となるか疑問なしとしない。

本件判決は、検察側の上告断念によって確定した。この判決の確定により「愛のムチが許された」とか「体罰が肯定された」といった受けとりが一部でなされているが、このような受けとり方は判決の趣旨を正しく理解しているとはいえないだろう。 (「体罰について」は本誌79年8月号参照。)

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。