教育福島0065号(1981年(S56)10月)-010page

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なぜこれがこんなにも面白く感じられるのだろうか。それは表現が童話のようにやさしく、推理小説のように興味を惹付けながら話が進行されていくからだと思う。これを読んでいくと、場面場面の情景が鮮やかに浮かんでくる。老婆が紡がれていく様子が、青年がとまどう様子が、すべてのものが凍っていく様子が−まるで絵本でも見ているかのように。そう、絵こそ書いてはいないが、ひとつの言葉、ひとつの文、それ自体が「絵」なのだ。つまり、この作品は、「言葉の絵本」と言えるのではないだろうか。私は、感嘆しないではいられない。(中略)

ところで、人間とは何だろうか。私が思うに、人間とは、夢や希望や喜びはもちろんのこと、失望や悲しみ、苦しみなど感情があってこそ「人間」なのだ。そう考えると、夢、希望を失った貧しい人々はもはや人間ではない。若い老婆はその代表であり、姿までも人間ではなくなってしまった。青年も人間性を失った人間の一人であるが、ジャケツになった老婆の心境を受けて夢や希望を失い凍ってしまった人々のために行動する。いわばこの二人は救世主のようなものであろう。どうして人々は凍りついてしまったのか。夢や魂や願望が結晶して降った雪のためであるか。いや、それに加えて、夢や魂や願望を失ってしまった人々の心にはもはや熱意などはない。その冷たくなってしまった心の中に降る雪のためであろう。その凍りついた心にこそ、ジャケツは必要だったのである。ジャケツは、「真の人間らしい人間」の象徴なのではないだろうか。人間は、どんなに貧しくても、どんな状況のもとでもジャケッを、人間性を失ってはいけないのである。

最後に、この小説が書かれたのは、現代ではない。しかし、現代に通じるところが多分にあるように思われてならない。」

(9)放送台本を読ませて

作品の理解を深める目的で、放送台本を読ませて補足感想文を書かせた。

それによると、台本を読んでかえってわからなくなったり、反対にわかりやすくてつまらなく思った少数の生徒と、「情景や心情などが細かく書かれているのでわかりやすく、情況に応じそれらの人々になりきったような感じで読むことができた」 「人々からジャケツをうばってはいけない−に愛や魂やらをうばってはいけないという願いがこめられていると思った」など、台本の方がわかりやすく新たに理解したことがあるとする多数の生徒がいた。

 

三 考察と反省

 

(1)実践目標について

五月の下旬に始まった学習は、授業では他教材に移っても延々続き、最後の感想文を手にしたのは終業式の日だった。その間、「先生がどこの部分のどのような質問を待っているのか、このことを毎時間考えてます」と書くような活発な授業時間を持つことができた。たとえば、10(2)では答えにファッシズムなどを予想したが、A君は、この作品の成立年代を考えれば、米軍のタイガーパターン迷彩服がヒントになっているのではないかと発言して、私を驚かせた。11(1)では、なぜ一匹だけなのかという珍問が出て教室が沸いた。その日の記録には「私たちは先生と一緒に考えるという機会にめぐまれましたのでとても充実した授業でした」と書いてある。愚問と思われるのも、後で重要な質問であることがわかる場合がある。19(1)などよい例だ。一読法的に進めると、先にいかなければ解決しえない質問も出て、混乱する。そんな日の記録には「そういうたのしい授業の陰には先生の哀しい苦労と必死の努力があるとわかりました」とあって、ついホロリとしてしまった。

一方、感想文においても、三千字を越す大作を書いた者、再三の書き直しによく応えた者など居て、彼らの努力と意欲は並々でなかった。

これらのことから、一抹の危惧をもって始めたこの授業は、実践の趣旨に記した目標に照らして、まずまずの成果をおさめたと思う。

(2)学習目標について

感想文を読んで痛感するのは、指導上留意したことの1)2)に関する混乱を払拭できなかったことである。しかしイメージ化しやすい台本を与えたことで、最後にはなんとか克服できた。また、テストの正答率も前掲のごとく好結果が出た。

以上のことから、学習の目標は達成されたと判断したい。

(3)反省

今、こうして振り返ってみると、欠点が目につき、掬いこぼした水の悔いが残るが、「詩人の生涯という本にめぐりあっただけで、国語的知識が一つ増えたと思いこんでいる自分が驚くほどすがすがしく感じる」という感想に救われた思いがする。「一学期の現国も終った。二学期もまた先生の授業にかける闘志と戦おう」と書いた生徒諸君に負けないように、新たな覚悟で挑みたい。

 

数学

 

一 研究の動機

 

学力の極めて低いままに入学してくる生徒の数が増加の一途をたどっている本校で、「数学を学ぶこと」についての意識調査を行った。そこには、解決すべき幾多の問題点を発見することができたが、その中でも特に授業改善に大きな示唆を与えるものとして、次のような生徒の声があった。

「やろうと思ってとりかかってみることがあっても、自分にとってはむつ

 

 

 


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