教育福島0065号(1981年(S56)10月)-016page

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おわりに

 

学習による生徒の到達度は、それぞれ異なっている。それに応える指導のありかたが、きわめて大切である。これによって、生徒一人一人が、自分なりに「やった!」という充実感をもつことができれば、それが「わかる授業」ではないだろうか。なお、表3はこうした私の授業に対しての生徒の反応である。教師の一時間、一時間の努力が大切なのだと今、つくづく、それを感じている。

 

商  業

 

一 習熟度別学習の導入経緯

 

生徒の多様化が進んでいる現在、能力的に優れていると思われる生徒でもややもすれば授業を進めるにつれ学習に自信をなくし、能力に劣る生徒はますます授業についていけなくなっている。本校では、現在このような生徒のために学習意欲を高める方法を研究しているが、具体的な解決策については悩みながら各先生方が試行錯誤している現状である。

さらに、本校の就職希望者の中では八○%以上が事務職志望であるが、実際には就職者のうち二〇%程度しか事務職に就けないことが無気力に拍車をかける一因となっている。 (資料1参照)この大きなギャップの一因は、事務職に関連のある商業や経済に対する生徒の無関心にあるものと思われる。

このような現状を少しでも打開し、商業や経済に興味・関心をもたせるために、視聴覚教材や新聞を利用して、マーケティングの話、生徒が最も興味をもっている“事務職になれる方法”“小売店経営法”などを簿記会計の授業で約三ヶ月間取り入れてみた。その結果、生徒は少しずつ商業科目に興味を示し、簿記会計の必要性を自覚し、意欲的な姿勢で授業に臨むようになってきた。

ところが、授業を進めるにつれて、生徒個人個人に能力の差が極端にみられるようになってきたため、理解に苦しむ生徒に対しては、個別指導や補習授業を行ったが、一向にその能力差は縮まらなかった。そこで、能力別に学級を編成し授業を展開すれば、この問題を少しでも解決できるのではないかと考え、能力別クラス編成調査(資料2参照)、進路調査などをもとにして研究を重ねてきた。その研究の結果、習熟度別学習に踏み切ったわけである。ここにその大要を述べてみたい。

 

二 習熟度別学習の課題設定

 

本校の進路状況を調べてみると、過去五年間の就職者は平均七二%、進学者は二八%と、就職希望者が圧倒的に多いが、目的意識もなく、漠然と就職している状態である。このような考えかたで進路を決定している生徒に、適切な指導方法はないものかと、進路希望調査を行ったところ、資料3のような結果を得た。

この調査の結果、商業科目を履習している生徒の殆どが、何らかの資格(特に簿記資格)を取得することを望んでいることがわかった。

そこで、このような生徒の希望に応えるために、簿記資格取得を目標に指導することとした。

 

三 習熟度別学習の目的と留意事項

 

(一)目的

1)能力に合った学習をさせることにより、無理なく学習事項をマスターさせ学習の楽しさを持たせる。

2)目的意識をもたせて勉強させ、簿記学習に興味、関心をもたせる。

3)習熟度別に学級を編成し、定期的に学級の人数を入れ替え、生徒に刺激をもたせる。

4)簿記会計1(二、三年生男子各二単位)について実施する。

(二)留意事項

A組(二学年中心)基礎学習を主体とした組。

B組(三学年中心)応用学習を主体とした組。

1)特にA組に移動した三年生には差別感を与えないように配慮する。 (どのクラスにも習熟度別学習の意味を時間をかけ説明する)。

2)生徒間に差別意識が現れたら一斉授業にもどす。

3)校内テストで実力があると判断した場合、随時B組に入れる。 (実力がない場合はA組に入れる。簿記検定四級程度を基準)。

4)入れ替えは月に一度行う。

5)評価は、校内テスト、提出物、作業態度、出欠状況をもって総合評価する。

 

四 習熟度別学習の実施

 

1)授業は二年、三年同時展開(資料4参照)

2)三年生で能力に劣る生徒を二年のA組に入れ、二年生で能力のある生徒を三年のB組に入れた。

3)移動する人数は一五名を基準とした。

4)入れ替えは月に一度(月に五回の校内テストで指導者が判断)とした。

以上の目的、留意事項をもって、実施したところ、左記のような結果をみることができた。

 

五 実施後の結果

 

1)実施直後差別意識がみられたが、授業が進むにつれなくなってきた。

2)授業態度が極端に良くなった。

3)質問が多くなり、競争意識が現れた。

4)自発的に学習する姿がみられるようになった。

5)補習授業に積極的に参加するように

 

 

 


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