教育福島0065号(1981年(S56)10月)-024page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

くの生活上の課題を持ち、能力に応じた指導と援助が必要となってくる。

 

三 精神薄弱児が学習の見通しを身近かに持てるよう指導する

 

先生の話を良く聞いていないのではない。聞いてもわからなかったり、断片きり聞きとれなかったり、忘れてしまったりするのである。或いは、話の文脈が行動の文脈に置き換えられずにいるのかもしれない。一通り指示を与え先生が「さあ始めましょう」と言ったら、リーダーの後に従って一斉にいすを持ち、無関係な教室に移動しはじめたという話も聞いたことがある。展開を急ぐあまり導入がおざなりになったり、学習上の注意等に時間をかけすぎて当初おさえたつもりの学習課題が忘れられたりといったことのないようにしたい。精神薄弱児は、課題を常に念頭において学習活動を続けることが比較的へたであるともいわれる。授業の途中で当初の課題を何度か想起させ学習活動を修正することも必要となることもあろう。また、周囲の刺激の選択もへたで、雑音にひっぱられたり、窓から見える自動車の動きばかりが気になり疲労してしまったりといったことがあるといわれる。

更に、学習課題が一応は分かってもなかなか行動にとりかかれないことも多い。何を準備し、何から着手し、どのように順序立てて進めたらよいかが見通ぜないことも多い。また、お話をさせるとなかなか気の利いた話をするが、具体的な行動の計画に移せないものもいるといわれる。児童生徒一人一人の持っているいろいろな問題を念頭におき配慮をかさねていきたい。

 

四 情緒を安定させ、自発的な活動をうながす

 

これまでは、主に学習意欲の喚起にかかわるような事柄について述べてきた。更に誰しも望むことは、もっと落着いた行動のとれる子供になってくれないものかということであろう。落着かせるというと、やみくもに大人が子供のはみ出し行動を規制するといった印象を持ちがちであるが、そのようなことだけで落着くとは考えにくい。

(一) 安定した情緒の状態を現出するようにする

行動を規制することも必要であろう。しかし、これだけで子供の持っている活動へのエネルギーを処理しきれるものではない。子供の好きな活動をじっくりと見つめ、そこから自発的な学習活動へと発展できるようち密に計画しなければならない。この自発的な学習活動に充足することが多ければそれだけ感情的にも、充足感を味わうこととなろう。

発達遅滞のはなはだしい子供であればあるほど情緒的に安定した状態でなければ学習場面には参加しにくいだろうし、学習活動の充実がなければ教室や授業が学校生活のよりどころにはなりにくい。まして、担任教師への期待や信頼は生じにくいと思われる。児童生徒が興味を持つ活動をじっくり見すえ、そこから積極的にかかわれるような学習活動を見つけ、類似の学習をくりかえして十分活動させることである。

(二) 未分化な発達段階にあることを考慮して学習を計画する

できること、やれそうなことの少ない子供たちである。両親や家庭の期待もさることながら、最初は、児童生徒の現在の能力にごく近いところに目標、内容をさだめて指導計画を吟味しなければならない。また、できること、やれそうなことがあるからといって次々と学習させようとすることにも問題がある。精神薄弱児の指導内容は、量的にも十分精選し、限られた時間で確実に身につけさせる必要のある内容をよくよく吟味したい。未分化な発達段階にある児童生徒にとって消化しきれない内容を押しつけられることは、単に学習内容が身につかないということだけでなく、情緒的にも混乱をひきおこし、活気を失なわせたり退行現象といわれるものをひきおこしたりもする。また、そのような学習場面を次々と拒否したり、回避したりすることも生ずる。授業場面にかぎって失禁するようになったり、部屋のすみのロッカーに常に逃げこみ、無理につれ出すとしだいにわけもなく興奮し周囲に乱暴をしたり、自傷行為にでたりといった極端な話も聞く。

(三) かっとう状況との積極的なかかわりを援助する

自発的に参加できる学習活動が少しずつ増加するに従って落着いて学習に参加するようになった例はよく聞く。

学習活動への自発的、積極的な参加が多ければ、それだけかっとう状況もいろいろと多くなろう。適切なかっとう状況であれば指導の場として効果的に活用もできよう。課題を明瞭にしてやり、自らの意志でそのことにかかわり解決に至れるように 援助してやることだろう。

このように、自己の欲求と周囲の状況とのかかわりで生ずるかっとう状況の解決を教師の援助でなしとげたり、大人の指示や仲間の指示を自分の中に取りこんだりといったことをくりかえしながら、しだいに自分が自分をさし図できるようになり、落着いたまとまりのある行動がとれるようになるのであろう。

 

五 人とのかかわりを大事にし、計画的にはぐくむ

 

(一) 教師と児童生徒一人一人との関係を大事にはぐくむ

精神薄弱児に生涯つきまとう課題の一つが人間関係の調整であろう。対する一人一人に応じて千変万化するこの関係は、きわめて弾力的な面

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。