教育福島0071号(1982年(S57)06月)-025page

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随想

 

共に学ぶ

 

川辺征四郎

 

川辺征四郎

 

「俺がいる班を毎年一番にする」と強く言い切ったのはT君であった。

檜枝岐村は、最近、朝日新聞に「檜枝岐に生きる」で村の生活や文化、そして今後の課題等が紹介された。当地は、東北一高い、燧ヶ岳や、会津駒ケ岳に囲まれた谷間にある村で、尾瀬の入口にもなっている。このように自然に恵まれた環境であるから、山には、ワラビ、ゼンマイ、フキなどの山菜が豊富であり、川には幻の魚イワナやサンショウ魚が生息している。

冒頭のT君の発言は、昨年の六月に実施された「フキとり作業」の始まる前に言った言葉である。その前の年もT君の所属する班は収穫量が一番であったので、私は頼もしくなりT君に従うことにした。T君が、わが班のリーダーで、小さな先達でもあった。フキについて熟知していること、仲間の先頭に立って働くことなど、最適の指導者であった。

T君は一時もじっとしていない。精力的に動きまわり、また、指示も適切である。フキを刈る手つきも、私などよりはるかに慣れたものである。その場所にフキがなくなると、班員二、三人と連れだって自転車にまたがり、フキのある場所を探してくる。私は、残りの班員を連れてその場所に直行する。車のトランクはまたたく間にいっぱいになる。一日の行事のフキ採り作業を終わった時、汗とほこりによごれたみんなの顔には、快い疲労の表情があった。ひとつのことを成し遂げた満足感があった。教室では見られない顔である。

T君の班は、収穫量百キログラムを越え、公言どおり一位になり生徒会に貢献した。

リーダーとして活躍したT君や、フキ採り作業を通していろいろと考えさせられることがあった。

T君は、教室で本とノートを使った学習はあまり得意でない。成績も低調である。しかし、身体をつかった作業を伴う学習では、生き生きと活動していると聞く。技術家庭や美術、そして体育などの授業では、黙々と作業をしたり、積極的に取り組むそうである。秋の文化祭の時に、T君と一緒に仕事をした時も感心させられた。文化祭の準備の時に遊びまわっている男子のなかで、T君は積極的に協力し、適切に仕事をしてくれた。

T君の良さを、私自身の目で二度見せられ、改めてT君を見直すとともに彼の将来は、彼の長所を十分に生かしたほうに進んでほしいものであると願っている。

フキ採り作業を通して、もうひとつのことについて考えさせられ反省している。

本校は全校生徒四十名に満たない小規模校である。一学年十数名の学級編制で、保育所から中学校まで同じメンバーで生活している。そのことから、私自身、本校の生徒の特性として、慣れ合いの生活で、厳しさがなく、競争心のない序列のついた集団であると観念的にとらえていた。よく本などにも書かれている。確かに一部は真実であると思うが、それがすべてであるときめつけてしまうことが怖い。T君の班に限らず、どの班も負けまいとして、汗を流しながらがんばっている姿を見たとき、この生徒たちに競争心がなく慣れ合いの生活をしているときめつけていた自分が、教師として狭い識見しか持ち合わせていなかったことが恥ずかしい。生徒を見る確かな目を養うためにも、共に行動し、共に学習する機会を多く持とうと思う。

今年も、まもなくフキ採りの季節になる。T君の三年連続一位を期待しつつ、真実を見つめる目を養いたいと思う。(桧枝岐村立桧枝岐中学校教諭)

 

子供らとともに校庭整備

子供らとともに校庭整備

 

 

 


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