教育福島0071号(1982年(S57)06月)-037page

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サークル紹介

 

現代アメリカ口語英語研究会

 

福島大学教育学部教授

 

西村嘉太郎

 

図書館コーナー

 

図書館コーナー

 

この会の正式の名前は「現代アメリカ口語英語研究会」という。郡山市民会館を主会場に、隔月ある土曜日に集まる、英語教育に関心を持つ人々のサークルである。間違いないと思うが昭和五十一年の秋に発足して、第一回のテキストはB・マラマッドの「アシスタント(従業員)」であった。当初名称などなかったが、今年勇退された安藤四加男先生のお骨折りで、県を通じて文部省から運営費をいただくに当たって規約とともに制定された。

参加会員は常に二十名である。何故「常に」というかというと参加希望者が多く、きっちりにしておかないとテキストの配布や事務連絡がとれなくなり、その上発言の機会が少なくなるのを恐れた結果として生じた非常手段でセミナーとして最も適当な人数と判断したからである。会員の自己規制は厳しく、三度(つまり半年)例会に無断欠席すると除名されることもあり得る。実はその席を待っているウェイティング・リスト上の先生もいるのである。

 

会の運営はすべて英語で行われる。クラスでジャパニーズ・イングリッシュを使用することについての議論は色々あるが、例えば読んだ小説の筋を英語で説明したり、人物描写を簡潔に述べたり、タイトルの含む所を解説したりすることは、英語を教育する者として避けられないことだという姿勢なのである。前もって次のような八つの議論の柱が与えられていて、参加者はそれぞれについて意見をまとめてくることになっている。(1)タイトルの意味 (2)プロット (3)登場人物の性格 (4)作品の背景 (5)内的葛藤 (6)テーマ (7)作者の視点 (8)文体。

一通りすべて発表してもらうが、テキストの内容によって議論の重点は変わるのが当然である。ある小説では(4)を広く、またあるときは(7)を深く、異見を出し合い会はすすむ。(5)、(6)などは描象的に表現する内容でもっとも苦労するところである。用意した私見をのべ、他のうまい発言を羨み、活発なやりとりが続く。筆者はモジュレーターを任じているがどうしても発言が多くなり反省している。毎回びっしりノートをとって発言の度にその解釈の素晴らしい佐藤純子先生(彼女は27回)無欠席である。事務局長役の吉田勝人、鈴木久男の両先生、遠く矢祭から参加される中島一枝、常連として欠かせぬ佐藤瑛子、東富男、芳賀良夫、佐藤志美子、石井ミチ子、内村正則、阿部芳夫の諸先生に英語塾の酒井蓉子さんなど筆者の問題提起の方向をみきわめて答案を用意され集まってこられる。更に独自の解釈に加えて、筆者の持論であるキーワードの分析も参加者全員が必ずしも一致することではなく、頻度数とそのデータの分析など一寸したぺーパーが書けそうな出来栄えなのである。なにしろお互いの英語運用能力も知り切っての討論参加だから張り合いがあるのである。

現在までの二十七冊のテキストはアメリカ文学におけるユダヤ人というテーマが、全員の興味の対象となった所からユダヤ系作家のものが多い。1)・Bシンガー六冊、B・マラマッド四冊以下S・ベロウ三、アップダイク、サリンジャー、ロス、ケルワク各一冊の外、C・マッカラーズ二冊、ライト、ヘミングウェイ、ワイルダー、スタインベック、ピアス、エリスン、ミッケナー、コジンスキーという顔ぶれである。難しいテキストで恨まれることもあり、アプローチを誤って意見がかみ合わないこともある。昨年末初めて試みた一泊合宿は大成功で、夜遅くまで議論が続いた。先生がたの熱心さは全く驚くばかり、忙しい公務、手の抜けない家事、重要な局面に立つ校外指導までこなした上での読書はさぞ大変と思われるが、その熱意と努力はそう簡単に挫けるものではなさそうだ。

 

次回の例会は五月二十九日(土)である。J・アップダイクの「同じ扉」に挑戦する。彼の「走れウサギ」を分析しているので初見参ではない。ふと気がつくと間近かに迫った会への慌しい準備は誰しも持つ共通の経験である。この次こそ十分余裕を持ってと思うのは会のあと御苦労会で一杯入っての誓言である。でもまた発表を求められないように、隅にひかえるのもやむを得ないお互いの生活である。とにかく楽しいそしてちょっぴり苦しく辛いサークル活動ではある。

 

 

 


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