教育福島0072号(1982年(S57)07月)-037page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

知っておきたい教育法令

 

内申書裁判

 

(総務課管理主事・古市孝雄)

 

〈前号まで〉

一 はじめに

二 事実の概要

三 一審及び控訴審における主な争点と各裁判所の判断

(一) C評定等と高校不合格との間の因果関係

 

(二) 調査書作成提出行為

一審はまず、憲法二六条一項について国民の教育を受ける権利は「各人が人間として成長発達し、自己の人格の完成を実現するために必要な学習をするものとして生まれながらに有する固有の権利というべきである」とし、子どもの教育は子どもの学習する権利に対応しているから「子どもの人格完成の実現を目指し、専ら子どもの利益のため教育を施す者の責務として行われるべきものである」とした。そして、調査書中の評定は、「生徒の学習権を不当に侵害しないように、客観的に公正かっ平等にされるべきである」から評定が具体的な事実に基づかなかったり評定に影響を及ぼすべき前提事実の認定に誤りがあれば「この評定は教師の教育評価権の裁量の範囲を逸脱したものとして違法である」と判断した。

次に「公立中学校においても、生徒の思想・信条の自由は最大限に保障されるべきであって、生徒の思想・信条のいずれかによって生徒を分類評定することは違法なものというべきである」とした。以上の点から原告の行為をみるとき《証拠略》によれば、C評定等は具体的な事実に基づかないものであり、また、原告の行為は「中学生として真摯な政治的思想・信条に基づく言論・表現の自由にかかる行為であり、本件中学校側の教育の場としての使命を保持するための利益を侵害したものとはいえない」から、本件調査書作成提出行為は、原告が各高等学校に進学し教育を受ける権利すなわち学習権を侵害したものであると判示した。

これに対して二審は、事実関係から調査書記載の内容はほぼ事実をありのままに要約したものであるとした上で「これらの事実関係を前提として校長が…C評定をなしたことが不当であるということはできない」と判断した。その理由として裁判所は、A・B・Cの三段階による評価は中学校長の自由裁量に委ねられていることをあげ、判断の前提となった事実の認識に誤りがあったり、前提となった事実関係から導き出された判断結果が一見明白に不合理なものでない限り、右裁量の行使が違法とされず、本件評定にっき校長に違法な裁量権の行使はないとした。

更に、特定の思想信条を理由として教育上の差別取扱いはなしえないが、原告の行為一が一定の思想信条から発したものであるとしても原告が「生徒会規則に反し、校内の秩序に害のあるような行動にまで及んで来た場合において中学校長が高等学校に対し、学校の指導を要するものとして、その事実を知らしめ、もって入学選抜判定の資料とさせることは、思想信条の自由の侵害でもなければ思想信条による教育上の差別でもない」として、本件調査書作成提出行為は校長の権限に基づく正当な行為であると判示した。

(三) 分離卒業式の実施

原告が卒業式阻止闘争を唱えて勝手な発言やビラの散布をしたため、学校側は原告を卒業式に参加させず、別に校長室で卒業証書を授与したことについては、一、二審ともに学校側の措置を適法だとした。一審は次のように判断する。「原告を本件卒業式に出席させた場合には……卒業式が混乱に陥るおそれが十分に予見され、また、卒業式闘争を取りやめるように原告を説得することは、直接的にはもとより父母を通じての説得指導も困難な状況にあったこと……分離卒業式以外に有効適切な方策を見出すことができなかったことなどの諸事情にかんがみれば校長が原告に対し本件卒業式に出席することを禁じ、原告に対する卒業式を他の生徒と分離して実施したことは適法であるというべきである。」

四 終わりに

一審と二審の判断の相違は、一審は非行の事実はあってもそれが重大でなければ生徒にマイナスに評定するのは違法であるとし、二審は非行の事実を事実として評定するのは校長の裁量権限であるとしているところにあるといえよう。最高裁の判断に注目したい。

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。