教育福島0073号(1982年(S57)08月)-046page

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ふるさと探訪

 

県指定重要文化財(典籍)

県指定重要文化財(典籍)

 

大般若経 六百巻付経櫃 六合

 

所在地 喜多方市慶徳町新宮字熊野2258番地

所有者 熊野神社

 

大般若経(大般若波羅密多教)全六百巻のうち、欠十七巻、重複一巻で五八四巻が現存する。このうち巻第二百までは、奥書によれば宝暦五年(一七五五)から同十三年にかけて河沼郡・耶麻郡・大沼郡さらに若松城下・金山谷・南山を含む会津郡など、広く会津諸郡の村々から個人あるいは村中によって寄進されたものである。それらは同一の形式による版本で、折本の体裁も同じである。(縦二十六・四センチメートル、横九・八センチメートル、二十五字八行詰)

巻第二百一以下もまた折本で、その多くは版本であるが、写本七十巻・筆写部分を有するもの二巻が含まれている。これらの表紙は、第二百までのそれとほぼ同時かあるいはより新しい趣を呈するが、版本の印刷は古風を帯び、それらの数巻には「応永川五年戊申六月十八日沙門令曼修覆之」などの奥書があり、写本には、「建武三年丙子卯月十日 三位日俊卿筆」の奥書をもつものもある。

また六合の経櫃のうち、二合の内底には、「文亀四年甲子五月吉日 大旦那簗田右京亮行次」蓋裏には「寛保三癸亥年二月四日 中條広泰繕焉都而六画(亟一破壊」、また「宝暦五乙亥載七月吉日 塗寄進 上野利兵衛・川口久エ門」と記されたものがある。

以上、かつて、中世に存在した版本大般若経は、おそらく戦国期までに一定程度、写本を交えるものとなっていたのが、江戸中期ころまでには、一二六巻(新編会津風土記」ほどとなり、宝暦のころに六百巻への整備をみたものかと推測される。巻第二百までの部分は時代的に下るとはいえ、近世会津地方における庶民の信仰の実情を示す好個の資料である。

「大般若経六百巻」は、これを収蔵する経櫃を含めて貴重な文化遺産である。

 

 

 

 


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