教育福島0075号(1982年(S57)10月)-016page
高等学校
書 道
中学校国語科「書写」から高等学校芸術科「書道」へ
福島県立安積女子高等学校
教諭 折笠好 夫
入学時に、生徒が選択しなければならない科目に芸術がある。音楽・美術・書道の中から興味・関心をもとに、希望科目を選ばせている。
書道についての生徒の認識は「中学校の習字(書写)と同じもの、字が上手に書ければ将来役立つこともあるだろう」といった程度のものである。そこで、中学校国語科書写「正しく、速く」から、高等学校芸術科書道「美しく」への移行の段階では、書とその学びかたについての授業をすることになる。
一 作文「書道を選ぶ」
四百字詰原稿用紙の一行目に題目、二行目に生徒番号と氏名、三行目から選択した理由を、三百六十字以内で書く。下書きを用意し、自分が最も得意とする筆記用具で書くこの作文は、硬筆による書写の力を見る基礎資料となる。また、書道に対する見かたや考えかた学習に当たっての決意など、内省の機会でもある。(書いている時の姿勢、筆記具の持ちかた、身体的欠陥の有無を観察する。)−作品1
二 「私の好きな言葉」
選文、書体自由。半紙に毛筆で書き氏名も入れる。(素材としての語句の選びかた、書体についての理解をみる。)手本なしということで戸惑うが、全員が同一の手本で書くと優劣がはっきりするのに比べて気持ちが楽になるのかのびやかに書けるようだ。(書道用具の状況、姿勢、筆の持ちかた、運筆、作品の扱いかたなどを観察する。)
書き上げた作品を見て「書」とは、なにかを考える。人それぞれに容姿が異なるように、表現された書も異なり、それぞれ好きな花が違うように、好きな書も違う。それに、書は、文字を素材とすることからくる制約がある。その限界についても考える。−作品2
三 「書心」と書く
半紙に楷書で書心と書き、その後で教科書の書心と比較する。その時、どんな観点から見ているか考える。(字形か、線かを尋ねてみる。)
文字を構成する要素としての線。作品の違いは、線の違いによることが多い。それで、書における線を見る目を確かなものにしていくことの大切さがわかる。線の長短・細太・角度を正確に見る目を培うように努める。それは容易なことではない。
古典から集字された書心を見て書くことから、見落としやすい傾向を知る。(観点を指摘し、よく見ることが、できたかどうか確かめさせる。)
臨書と創作といら用語の意味を理解する。臨書の目的、特に表現技術修得の価値について考える。これまで、与えられた手本を左から右へ書き写していただけだったといら生徒も多い。これからは、どんな書きぶりなのか、どんな表現力を自分は身につけたいのかをいつも考えて書くようにする。
用具の筆にも注意する。毛筆の特性について、線の細太の表現と関連して自分の筆で可能な限り細い線と太い線を書いて考える。(筆管の上部についているひもだけ持って書かせることによって筆圧について、更に、筆先を開き、筆管を倒して押し出すようにして鋒の長さの二倍に近い幅の線を書かせることによって、逆筆・側筆について理解させる。前の弱々しい線に比べて紙が破れるほどの迫力のある線に思わず息をのむような驚きを覚えるようである。)−作品3
(写真1)
四 古典の臨書
この筆で、どんな線が、どんな書表現ができるのだろうか。楷書にも、いろいろな書きぶりがあることを、唐の四大家の書を臨書することによって学ぶ。
(一) 九成宮酷泉銘から(写真1)臨書学習の順序について知る。
1 全体を通して臨書する。
2 自分で添削(批正)する。
3 相互(共同)に批正する。
自分が見落したところについての記録を忘れない。(朱書きによって、目立たせることもできる。)
4 努力箇所を明確にして、集中的な臨書、練習をする。
ここでは、字形は背勢、筆管は側筆、始筆、終筆、折れ、はねの形を生み出す運筆、速度に注意する。−作品4
(二) 孔子廟堂碑から
字形、向勢。運筆の速度を一定にして、ゆっくり書く。たて画の左傾斜の角度をよく見て書くこと。−作品5
(三) 建中帖から
向勢、重厚な線。筆圧の加減。始筆終筆、折れ、特に、はねと払いの筆づかいに注意。−作品6
(四) 雁塔聖教序から
字形、均衡。外形をいろいろな三角形でとらえる。軽妙な線。逆入の始筆、ばねを感じさせる運筆。1作品7
(五) 楷書蘭亭叙の臨書